237.コーリン石 Collinsite (カナダ産) |
ラピッド・クリークとビッグ・フィッシュ・リバーは、ボーフォート海からおよそ40キロほど川を遡ったあたり、マッケンジー・デルタの東、リチャードソン山脈の一角にある。もっとも近い現地民の集落は南東方に約70キロ離れたアクラビクだが、産地へのアクセスは東方120キロにあるイヌビックの町に車で行き(ドーソンからハイウエイが通っている)、そこからヘリコプターを使うのが最善といわれる。ことに採集地点を何箇所も回るつもりならば。(No.234の地図参照)
産地周辺は年間降雨量150ミリ以下の乾燥気候で、北極圏の北にあって凍土帯に属する。深く浸食されたクリーク(入り江)とゆるやかにうねる丘が連なり、平均高さ100〜200mの峡谷に、険しいテラス(段丘)が形成されている。崖くずれが頻繁に起こるため(特に降雨季)、採集作業はしばしば危険を伴う。
6月から7月にかけては穏やかな白夜の夏で、気温は30度まで上がる。しかしいったん風が吹くとあっという間に天気が崩れ、雨や雪のスコールが2,3時間も続く。どうかすると、そのまま数日〜数週間降りやまないこともあり、そうなると底の浅い川はあっさりと流れを変え、キャンプ地は洪水に浸される。荒野をカリブー(アメリカとなかい)、ムース(おおしか)、狼、グリズリーベア(灰色グマ)などの野生動物が徘徊している。このような厳寒、僻遠、危険な土地で、しかし最良の鉱物標本は得られたのである。
コーリン石は、Ca(Mg,Fe)(PO4)2・H2Oの組成を持つ燐酸塩鉱物で、わりと珍しい。良晶の産地は少なく、ユーコンが知られる以前は、サウスダコタ州のチップ・トップ鉱山とサウス・オーストラリアのレープフック・ヒルの2箇所のみが知られていた。しかし、1983年の7月、「世界でもっとも素晴らしいコーリン石がラピッド・クリーク(ロカリティ11)で発見された」−と発見者たちは自己申告している。
本鉱の名はカナダ地質調査所のディレクターを務めたウィリアム・ヘンリー・コリンズに因み、ユーコンは原産地フランソワ・レイクに続いて、カナダで2番目の産地となった。発見者たちは灰色グマに悩まされながら、標本を採集したという。命がけである。