247.オルミ石/ポルダーバート石 Olimiite/Poldervaartite (RSA産) |
ポルダーバート石/ポルデベール石の名で知られる、カルシウムとマンガンを成分に持つ珪酸塩鉱物。カラハリ・マンガン鉱床のウェッセルズ鉱山で発見され、1983年に命名された。紫外線で赤色に蛍光する。
以前ひま話に書いたことだが、ごく希産のため、当初は専門の標本商が探し回ってやっとこさ仕入れてくる類の石だった。それが、ここ1,2年、日本の鉱物ショーにも顔をのぞかせるようになった。相変わらず高いとはいえ、異常な値段というほどでもない。
さては新しいのが出てるな? と推測していたら、どうやらその通りだったらしい。2001年10月から翌2月にかけて、ヌチュワニンU鉱山でマンガン鉱石の採掘中に大量の産出があり、約5000個の標本が採集されたという。以後の供給は途絶えているが、これだけあれば、十分に需要を満たせるだろう。
5000という数字を少なく思われるかもしれないが、この種の知名度の低い希産鉱物を、それなりのお金を払ってまで持ちたい人は、実際のところそんなにいないのだ。たくさんあっても、値段が下がるだけで、多分思うほどには捌けないだろう。このあたりの機微は、奥本大三郎氏が、「捕虫網の円光」(中公文庫 1997)に、コレクター心理を熟知した筆で記している。
標本の値段にしても古書の値段にしても出物が稀少で、異常な値がつけられることがあるけれど、需めている人の絶対数はたいていそんなに多くはない。ひところ中国や北朝鮮の蝶は日本では珍しがられ、戦前の標本などが高値で取引されたけれど、いざ正式のルートができて大量に日本に入ってくると、たちまち供給過剰で売れなくなってしまった。古書市であきれるような値のついている書物でも、千部も復刻すれば、もう余ってしまうことが多いのである。ル・ムールトはエンマゴミムシの値崩れをふせぐために、各国の博物館に大量にこの虫を寄付し、自分のところには三百頭あまりを残しておいた。少しずつ、高い値のままで売るようにしたのである。…
数が制限されているから希少性があり、だから高いけれども欲しい人は買う。鉱物標本も宝石も同じだ。
この本は、副題を「標本商ル・ムールトとその時代」といい、内容は昆虫屋(むしや)向けだが、標本の供給事情やコレクターの生態など、鉱物屋(いしや)にもおおいに身に沁みるところがある。あるいは力づけられることもあるだろう。当サイトのリンクバナーの標語は、ル・ムールトの言葉、「色と形への愛、発見への情熱」を戴いた。一読をお薦めします。
追記: 2006年頃、ヌチュワニンUで(透明で赤色の)宝石質のポルデベール石と目されるものが発見された。フィレンツェ大学の地球科学部がサンプルの分析を行ったところ、ポルデベール石とするよりはむしろそのカルシウム成分の過半をマンガンが置換した鉱物であることが分かった。これにより2007年にマンガン優越種オルミ石 Olmiite が報告された(ポルデベール石‐オルミ石間で固溶体をなす)。以後、標本商さんが扱うヌチュワニンU産の(赤色がかった)標本はたいていオルミ石と標識されている。また2006年以前にポルデベール石として販売されたものも、オルミ石である可能性が高い。(画像の標本は 2003年に得た。)
おおまかに言って、ウェッセルズ鉱山産の(白色〜クリーム色の)標本はたいていポルデベール石だが、なかにはオルミ石もあるという。一方ヌチュワニンU鉱山のものは、たいていオルミ石とみられている。肉眼鑑定的には、赤味の濃いものほどマンガン成分が高い経験則(?)があり、淡色〜無色に近いものはポルデベール石と考えてよいようである。上の画像の標本はどちらだか、素人は判断し兼ねる。両種はいずれも南アフリカ以外では報告されていない。