260.ウロー石 Hureaulite (ブラジル産)

 

 

ウロー石(淡桃色)−ブラジル、ミナス・ジェラエス産
(深灰緑色・ロックブリッジ石、淡青色・藍鉄鉱)

 

1993年に物故された櫻井欽一氏は、生涯鉱物趣味に情熱を傾け、その愉悦も苦しみも味わい続けて、ついに飽くことを知らなかった人だ。晩年の氏は茨城県雪入の、日本では珍しい燐酸塩ペグマタイトに産した黄桃色の石を秘蔵し、人には「今はまだ明かせませんが、おそらく新鉱物になると思いますよ。」と語って、細い目をさらに細められていたそうだ。
その石は没後、お店(自営)の帳場脇の引き出しにしまってあったのが見つかり、コレクションの半ばと共に国立科学博物館に寄贈された。そこで初めてウロー石であることがわかったという。新鉱物でなかったのは残念だが、未知の石を手にわくわくしている記載鉱物学者の姿を彷彿させて、妙味あるエピソードだと思う。

ウロー石(ヒュールー石)は、1826年、フランス・リモージュ北方の原産地ウローに因んで命名された。わりと珍しい水酸燐酸塩鉱物で、Mn5(PO3OH)2(PO4)2・4H2Oの化学式を持つ。燐酸塩は普通、(PO4)の形をとるが、4つの酸素Oの一つが欠けて、代わりに水酸基OHが入る構造に特徴がある。この種の鉱物は珪酸塩 (SiO4) や砒酸塩 (AsO4) の場合も含めて、いくつか知られているが、そうザラにあるわけではない。(cf. No.136
写真の標本はブラジル産。1970年代後半にクリミノッソ鉱山から素晴らしい結晶を出して以来の定番品。他産地のものに比べて結晶形がシンプル、色は可憐で美しい。

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