264.菊花石 Lapis Chrysanthemum (日本産)

 

 

菊花石(花びらの部分は大理石)−日本産(岐阜県?)

 

石の趣味とは縁がなかった(と思われる)我が家に、父の友人の洋服屋さんが、引越し祝いにと携えてきた、それが写真の菊花石だった。真砂を敷いた盆に石を載せ、窪みの部分に水を張った後で、由来を講釈してくれたと覚えているが、「こうして、いつも湿らせといておくなはれ」という一事しか記憶にない。
枕ほどの大きさの石は持ち重りがし、子供の腕でどうなるものでもなかったが、嬉しがって片側に手をかけ、その重みを楽しんだことは一再でなかった。やがて家人の興味が薄れ、手狭になって表に放り出されたこともあったが、今はまた玄関脇に置かれて、石らしい沈黙を守っている。

「菊花石の世界」(東方出版 2000年)によると、この種の石は、瞬間的に花を咲かせるものらしい。すなわち、

(1)石灰岩の山の下からマグマが溢れ、火山灰の上に流れ出す。軟らかいマグマは、火山灰の中に巻き込まれるように沈む。
(2)マグマは海苔巻状の母岩を作り、ゆっくりと流れる。一回の巻き込みで3つの層が作られる。
(3)火山灰で保温されたマグマの中には石灰質の気泡が充満しており、軽い気泡は上方に移動し、海苔巻の層に沿って列を作るように並ぶ。これが後に花を作る核となる。
(4)やがて、マグマと核のバランスが崩れた時、軟らかいマグマの中で花火のように核が弾ける(ガスが抜ける)。そこにすぐさま周辺の石灰質が入り込んで花を作る。
(5)長い時間が花の質を硬くし、ときには紅や黄金色に染めることもある。しかし、その姿は生成の瞬間を留めたまま、変わることはない。

それだから菊花石は、一瞬の花の躍動を現しているのだという。
そんな石だから、当時の我が家の空気を、いつまでも懐かしく思い出させるのかもしれない。

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