263.珪孔雀石 Chrysocolla (USA産)

 

 

クリソコラと玉髄の脈(一部に孔雀石) −USA、AZ産

クリソコラ(赤褐色のシミは赤銅鉱) −USA、AZ産

Chrysocolla クリソコラ

クリソコラを覆う鍾乳状の玉髄 −USA、AZ、レイ産

 

クリソコラという言葉を使った最古の記録は、BC4世紀、テオフラトスの「Chrysos kolla」だという。それはギリシャ語で「金をつなぐもの」の意味だった。当時は、この鉱物を粉末にして金に混ぜ、ろう剤として用いたものらしい。同種のフラックスについては、No.97にカドミウムと銅(孔雀石)の組合わせを紹介したが、クリソコラは硫化銅鉱床の上部酸化帯に大量に二次生成することがあり、孔雀石とともに早くから人々の注意を引いたのだろう。
この処方はとうの昔に時代遅れとなったため、効果を疑問視する向きもあるが、孔雀石(炭酸銅)が使えるのなら、クリソコラ(水酸珪酸銅)だって資格は十分と思われる。もっとも単に銅を混ぜただけではそんなに融点が下がらないのも事実だけれど。
本鉱は単独では硬度2〜4で、ごく柔らかいものだが、石英(玉髄)と共存すると、ちょうど樹脂含漬したトルコ石が硬化すると同様の効果を得る。ジェム・シリカと呼ばれて、装飾用に好んで研磨される。

追記:アグリコラの「デ・レ・メタリカ」には、金の粉鉱を製錬する方法として、次の記述がある。
「…もっと使われる方法は、葡萄酒残滓を乾燥して製する油でこれを濡らし、乾かして、次に私たちがクリゾコラと呼んでいる人工塩あるいは硝石および塩とともに坩堝に入れて溶かし込む方法である。」
この場合のクリゾコラは人造の薬品で、珪孔雀石そのものではないようである。しかし、別の箇所に「ムーア人たちがボラックス(硼砂)と呼ぶクリュゾコラ」という表現があり、これは「天然曹達及び人工曹達を少年の尿と混じて煮つめ、銅箸を並べた盥に注いで、固まって箸に付着したもの」だというから、銅成分を含んだ塩類ではある。またプリニウスの時代には、「曹達を尿とキプロス産の緑青と一緒に暖め、キプロス産の銅と一緒に石臼で搗いて作った」と書かれている。また別の箇所に、「ボラックスと呼んでいる孔雀石」という表現がある。
以上から判断すると、古い時代のクリソコラは、少なくとも孔雀石など銅の二次鉱物や銅そのものを含んだ調剤であり、金を容易に溶かすために用いられたことは確かであろう。珪孔雀石はその素材のひとつだったのかもしれない。

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