272.蛍石  Fluorite (メキシコ産)

 

 

蛍石 −メキシコ、エル・チューレ産

 

No.271の骸晶とは対照的に、キュービックな出っ張りがぽこぽこ飛び出す未来都市派の蛍石。稜はもとより、面の中ほどでも結晶の発達が見られる。これは分子レベルで存在する結晶格子のらせん転位(平たくいえば小さな断層面のようなもの)をとっかかりとして、結晶が渦巻き状に成長するメカニズムの肉眼的な表れと考えられる。この種の晶出形態は、どんな低い過飽和度でも、またどの部位からでも、成長が可能だ。

蛍石は生成温度の範囲が非常に広い鉱物で、一般に高温のときは八面体に、低温の時は六面体になりやすい。産状でいうと花崗岩の隙間に晶出するものは八面体、鉱脈中に出るものは六面体が多い。上の標本のように複雑な凹凸を見せる六面体結晶は、低温かつ過飽和度の低い環境でゆっくりと、おそらくは鉱脈をなして形作られたものであろう。ちなみに八面体の蛍石はイットリウム等の希元素を含むことが多いが、六面体の場合はそうした元素は入ってこない。蛍石の世界にもいろいろ事情があるんだね。

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