273.尾去沢石 Osarizawaite (USA産)

 

 

尾去沢石(青緑色粉末状)−USA、AZ、シルバー・ヒル産

 

以前、フラグメンツに書いたことだが、新しい鉱物は、しばしば複数の産地で、ほぼ同時期に発見されることがある。ホワイト石もそうだし、尾去沢石もそのひとつだ。

この石はかたや秋田県の尾去沢鉱山で発見された。方鉛鉱が風化して出来る二次鉱物の硫酸鉛鉱が、さらに風化した明礬石族の鉱物という。発見者の田口氏は、1961年のミネラロジカル・ジャーナル誌に論文を発表した。
一方、ほぼ同じ頃、オーストラリアはエドガー山麓の牧場でも淡緑色の未知の微小結晶が見つかっていた。研究者はこれを新種とし、1962年、ワシントンで開催されたIMAの総会に新鉱物として提案した。産地に因んだ名前も準備してあった。
と、その席上で待ったをかけたのが、日本代表として参加していた片山博士(片山石の)だ。氏は前年に出た田口論文の別刷を見せて、「公表したのは日本のが先です」と言った。カウンターが決まり、この石は尾去沢石と呼ばれることになった。

面白いのはその後、世界各地の鉱山から本鉱が続々と見つかっていることだ。上の標本はアリゾナ州のシルバーヒル鉱山産。ここはツーソンの北東56キロ、4駆を使ってやっと通れる荒れた山道の先にある閉止された銅山で、1973年に微小結晶が認識され、75年に尾去沢石であることが確認された。見つかるべくして見つかった鉱物だったのかもしれない。ミョウバン石 Alunite グループに属する。

補記:組成式 PbCuAl2(SO4)2(OH)6。産出は珍しくないが、一般に粉末状。秋田県亀山盛鉱山のものは、緑鉛鉱→ヒンスダル石→尾去沢石+ビーバー石の順で風化生成したとみられ、ビーバー石と累帯構造をなし、顕微鏡的に菱面体結晶を示すものがあるという。
尾去沢石はビーバー石 PbCu(Fe3+,Al2)(SO4)2(OH)6 に対するアルミニウム優越種に相当し、両者の肉眼的な識別は困難。ちなみに1959年に原産地標本の分析を依頼された加藤昭は、ビーバー石のアルミニウム置換体と判断して、わずか2日でデータを揃えたという。水に不溶。Dana 8th に、(原産地のものは)稀に ring crystal とあるが、「日本の新鉱物」には、稀に管状の形態を示すとある。どんなだろう?)。

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