271.岩塩  Halite (USA産)

 

 

岩塩 −USA、カリフォルニア、シアレス湖産

 

塩湖シアレス・レイクといえば、やっぱり岩塩が出ないとおさまらぬ。画像のように、立方体の縁の部分が階段状に発達した、面白い形が目印だ。骸晶といって、結晶面の中央部よりも稜角部の方が早く成長するため、こんな形になる。

この種の鉱物の晶出形態は、原成分を含んだ溶液の過飽和度と密接な関係があり、骸晶は比較的過飽和度の低い環境で晶出するときに出来やすい(補記参照)。塩は温度による溶解度の変化が少なく、過飽和度は主に蒸発(濃縮)速度に左右されるのだが、大局的にはさほど高くならないのだろう。面中央に向って窪んでいく骸晶の程度は、一般にルーペで分かるくらいの軽微なものであることが多い。しかしシアレス・レイクでは、水分の蒸発がよほど急なのか、稜と面との段差が大きく表れている。
聞いた話だが、砂漠性気候の当地でもたまさかの雨が降る。するとあっという間に岩塩は溶けてしまう。ところが雨が上がれば炎のような猛暑で、一週間と待たずに再び奇観を呈する結晶が姿を現すという。あるいは部分的に溶けては結晶することを繰り返した結果が、この形なのかもしれない。
ちなみに、氷のようなガラスのようなすべすべの面を持つサイコロ型の美しい結晶は、過飽和度が0.5%以下の環境で、ゆっくりと晶出した時に出来る。

当地の標本は美しいピンク色をしている。湖に生息する藻類の色素が沈着したものだという。しかし人工的に染めているとの説もある。以前あるところで、「強い日光にあてると色が褪せるので注意して下さい」との但し書きを見た。「それじゃ、この結晶はどうやって出来たわけ?」と言いたいが、染色だったらそういうこともアリか。もっとも藻類の色素だって分解されることがあるかもしれないので、真偽はよく分からない。ただ染めているとしたら標本毎の出来不出来の差はかなり大きい。品質管理に改善の余地アリ。なお、塩湖の成分は大海と繋がっていた大昔の名残の水が起源であるらしい。

補記:一般論だが、原溶液の過飽和度や温度変化による晶出の遅速によって、結晶の形は特徴的に変わる。過飽和度や過冷却度が大きいと結晶は樹枝状になりやすい。樹枝が成長する余裕もないほど早く晶出すると、細長い針状の結晶が放射集合した形(球晶)をとる。骸晶はこれらと比べると過飽和度の低いときに出来る。さらに過飽和度が低いと、面の平らな結晶や中央部が盛り上がった結晶になる。
順に並べると、 (過飽和度が高) 「球晶」→「樹枝状結晶」→「骸晶」→「平らな面で囲まれた多面体結晶」 (低)。
これらは結晶成長メカニズムの違いが、形の違いとなって現れたものと考えられている。(参考:「宝石は語る−地下からの手紙」岩波書店 1983)
cf. No.389 岩塩   No.961 水晶(スケルタル)

追記:ちなみに塩湖に棲むフラミンゴは、ミジンコなどの動物性プランクトンを常食し、その色素によって鮮やかなピンク色の羽を持つ。で、岩塩に見られる色素も同様にバクテリアなどの生物に起因するとも言われている。

追記2:中国では岩塩が方形の漏斗状になったものを「傘子塩」と呼んだ。中央にむかって傘のように出っ張っているからだ。

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