288.虫入りこはく Amber   (バルト海産)

 

 

こはく - ポーランド、バルト海沿岸産
(よく見えないが、昆虫の羽根が入っている)

虫(シロアリ)入りのコーパル −鮮新世
コロンビア、サンタンデル産

 

昔、とある漁師の家に12番目の娘が生まれた。父親はこの子によい名前をもらおうと、名づけ親を頼みに出かけたが、途中で評判の悪い根性曲がりの魔女に呼び止められてしまった。
「何処へいくのかね?」「いや、ちょっと」「お前さん、女の子が生まれたろう」「ええ、まあ」「もう名前は決まったかね」「いま神父さんにお願いにいくところでさ」「私がつけてやろうか」「とんでもない。いや、ごめんこうむります」
漁師は魔女を避けようとして、かえって怒らせてしまった。実は彼女は自分が名づけ親になるつもりで、贈り物まで用意していたのである。「そうかい、そんなら、私にも考えがある」

魔女はこの娘(バーシャという名前がつけられた)がとても醜くなるように呪いをかけた。それでバーシャは「魔女の娘」といじめられて育った。あんまり醜くくて父親までが疎ましがったので、いつも泣いていた。魔女はさすがにやりすぎたと思い、バーシャを訪ねると魔法の首飾りを渡した。「この首飾りをかけている間、お前は本当の姿、この上なく美しい姿に戻ることが出来るだろう。ただし一人でいる時だけだ。お前が恋をして幸せを手にすることはあるまいよ。」
バーシャはときどき首飾りを使った。少し気持ちが晴れた。けれども、ひとに嫌がられるのはどうしようもなかった。

ところが、ここにクパという青年がいた。バーシャが醜くてもいつもやさしかった。彼女の苦しみをどうかして救ってやりたいと思った。クパは誰もが避ける魔女の家を訪ね、呪いを解く方法を教えてほしいと懇願した。魔女は、もともと名づけ親になりたいと思ったほどだったので、こう言った。
「可哀想だが、一度かけた呪いは私にも戻せない。お前が私の呪いより強い魔力をもった石を取ってくることが出来れば別だがね。だが、きっと無理だろうよ」
それは海の王が何十万年も大切に守ってきた石で、数百万年前の蝶が封じ込められた琥珀であるという。クパはバーシャが止めるのを振り切って海に漕ぎ出し、苦難の末にとうとう海底から石を持ち帰った。琥珀を掲げると、バーシャは見る見る美しい娘の姿になった。それから二人は海辺に家を建て、末永く幸せに暮らした。

これは「琥珀の蝶」というポーランドの民話。海から琥珀が揚がるお国らしい話だ。琥珀の中には時折、虫や植物が入っていることがある。稀には美しい蝶を閉じ込めた琥珀が見つかったのかもしれない。
昔から涙と関連づけられることの多い琥珀だが(No.164)、このお話はめでたくハッピーエンド。

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