306.天青石 Celestite/Celestine (マダガスカル産) |
マダガスカルの天青石は青く透きとほり、夏の氷菓子の涼感と、月光を浴びた秋の湖の静けさを偲ばせる。
この石は島でもただ一箇所、西海岸に注ぐ Betsiboka 川のほとりに産地があるという。およそ65百万年前、暁新世前期(ダニアン期)に堆積した泥灰土と砂岩の層に、貝殻や化石が大量に埋もれている。カルシウムに富んだこの土壌は有機物の分解と低温水の循環による続成作用を受け、層の中ほどにストロンチウムの濃縮した領域を作った。天青石のノジュールや結晶を伴うジオードが見つかるのは、厚さ30mに及ぶこのエリアである。
Sakoany は産地に一番近い村で、少数民族のサカラバ族が50家族ほど住み、漁労や農業を営んでいる。天青石は彼らの手頃な副収入であり、乾季の間に徒歩とボートで採りにゆく。1967年に採掘が始まり、近年は年産15トンくらいのペースで出回っているらしい。私の聞いた話では、以前は一人の業者が販売権を独占していたが、その後複数の業者が扱うようになり、市場価格がこなれたとか。
「天の蒼々たるはそれ正色か、その涯しなきゆえか」(荘子)
そんな問答をしてみたくなる石だ。
ちなみに:フレーザーの「金枝篇」によると、サカラヴァ族はかつて(?)王を戴いていた。歴代の王の頚骨や爪、頭髪などがワニの歯の中に納められ、特定の建物に祀られた。この遺物の所有が王位継承権の証だった。すなわち、正統の血筋を継ぐことより、遺物を持っているかどうか−遺物が帯びている豊穣の気を受け継いでいるかどうか−が、より重要だったという。…古代の中国や日本と同じだね。