374.磁硫鉄鉱 Pyrrhotite (ロシア産) |
磁硫鉄鉱は黄鉄鉱(FeS2)と同じく鉄と硫黄の化合物だが、鉄に対する硫黄の量が相対的に少なく、しかも変則的な比率を示す。鉄1に対して硫黄がほぼ1〜1.2。これは鉄と硫黄の原子が1:1で規則正しく配列したときの結晶構造から、いくつかの場所で本来あるべき鉄原子が抜け落ちた状態と考えられている。
このことは磁硫鉄鉱の持つ磁性(磁石を引き寄せ/引き寄せられる性質)に関係しており、鉄の空位が多いほど磁性が強くなる。
鉄と硫黄が1:1の鉱物は、Troilite
(トロイリ鉱)という別種になり、極めて珍しい。最初に発見されたのは隕石中だった。それに比べると磁硫鉄鉱は普通に存在する鉱物といえ、黄鉄鉱や黄銅鉱、ペントランド鉱その他の硫化鉱に伴って産する(隕石中にも含まれる)。
木下亀城の「原色鉱石図鑑」には、「黄鉄鉱を硫化水素中で熱すると、硫黄の蒸気圧が甚だ高い場合以外、550℃以上では磁硫鉄鉱に変わる。…磁硫鉄鉱を硫化水素中で熱すると550℃以下では黄鉄鉱に変わる」とある。
学名はギリシャ語で赤みを意味する pyrrhotes
に因み、磁性とその赤みによって黄鉄鉱と区別することができる。(自形結晶であれば形からも)
補記:構造に部分的な空位(原子の欠落)を持つという説のほか、本鉱にはふたつの結晶構造が存在するとの説もある。組成がFeSに近い場合は六方晶系、相対的に硫黄が多いものは単斜晶系で、自形結晶中に両者が混在することがあるという。
古い本だが、本邦鉱物図誌1(昭和12年 大地書院)には、「磁硫鉄鉱の化学成分は一定せぬが、純粋のものはFeSに近い。常に硫黄がこの割合より多く含まれている。これはこの鉱物がFeSとSとの混晶であるためとされるが、またFeS2(黄鉄鉱または白鉄鉱)を夾雑しているためとも言われる。磁硫鉄鉱はニッケルを2〜3%もしくはそれ以上も含んでいることがあるが、この場合も硫鉄ニッケル鉱の夾雑によるとせられる。コバルトや白金を含むこともしばしばある。産状のもっとも著しいのは岩漿分化によって生じ、ニッケルを含む大規模のもの(カナダ、サドバリー鉱山)であるが、本邦ではかかる種類のものは少なく、主として接触鉱床に産する。磁気作用と特有の色のために容易に鑑別される。」と載っている。
どれが正しいか知らないので、とりあえず併記。
追記:磁硫鉄鉱は多金属鉱床に普遍的に産する種だが、巨大結晶標本の産地としては、ロシア極東のダルネゴルスクが第一等と目される。なかでもニコラエフスキー鉱山産の美品が有名。この鉱山は1982年に本格稼働が始まったが、70年代から産出が知られていたという。西側市場にはソビエト解体の少し前、1989年に現れたという。
産状として六角板状の結晶(またその花弁状の集合形)は第一世代の生成物で、その後、第二世代として角柱状に伸びる形状に成長する。柱状結晶は25cm
に達するものが出た。ブロック状で数十cmサイズのものもある。2000年代にかけて西側市場のショーの定番品だった。(2021.8.15)