373.ラプランド石 Laplandite-(Ce) (ロシア産) |
ラプランド石は Na4CeTiPSi7O22 ・ 5H2O と表記される、ナトリウム、セリウム、チタン、リンの水和珪酸塩だ。セリウムを含む鉱物はなかなか珍しいが、実物はナトリウムの代わりにカリウムやカルシウム、セリウムの代わりにトリウム、チタンの代わりにマグネシウムやニオブなどをも含み、かなり複雑な組成を持っている。
コラ半島のカルナスート山で発見され、この地方の呼び名であるラプランドに因んで、1974年に命名された。
ラプランドとは、スカンジナビア半島の北部やフィンランド、ロシアのコラ半島一帯に住むフィン・ウゴール系の少数民族が住む土地の意味で、かつて彼らのことをラップ人またはローピと呼んだことによる。彼らは20世紀の初め頃までトナカイの放牧で暮らしを立て、独自の文化をもっていたという。
現在はサーメ人と呼ぶのが一般的になっているから、いずれラプランドもサーメランドと呼ばれるようになるかもしれない。
NHKアニメの「ニルスの不思議な旅」で、スウェーデン北方のラプランド地方が国中でもっとも風光の美しい土地と語られていたのをご記憶の方も多いと思うが、一方ラプランド石は実に地味な鉱物のように思われる。命名者はこの石のどこにラプランドの自然を見たのであろう。
追記:新訳版の「石の思い出」でも、原住民の呼び名はラップ人(ローピ)からサーメ人(サーメローピ)に変更されている。著者のフェルスマンはコラ半島を主フィールドに活躍した鉱物学者で、サーメ人たちの協力に支えられて大きな業績を残した。また「ローピの血」であるユージアル石のエピソードなど、彼らの伝承を筆に残した。
今となって、ユージアル石を「サーメ人の血」と書くのは居心地悪いと思うのは私ひとりだろうか。