383.セプタリアン・ノジュール Septarian Nodule (USA産)

 

 

Septarian Nodule

セプタリアン・ジオード (スライス研磨面)
−USA、UT、ザイオン・パーク産


ベントナイト質粘土のノジュールに生じたひび割れに、晶質の方解石が着床したもの。ユタ州南部のザイオン国立公園付近に見つかる石で、「セプタリアン」という思わせぶりな名前がついている。
パワーストーン系の本を開くと、周縁に向って伸びる角がいつもちょうど7つ(セプト)あるフシギな石で…とか書いてあったりするのだが、載ってる写真はひいき目にみてもその通りでなかったりするからフシギだ。
というか、そもそも3次元の立体構造をもった天然のノジュールにおいて、どこを切っても必ず7つのき裂が見えるなんてことは、まずありえないと知らねばならない。

セプタリアンの本当の語源はラテン語のセプタム(septum:隔壁/ 分画)からきており、粘土質母岩と充填されたクリーム色の方解石との間を、茶色いあられ石が隔壁のように仕切っていることによる。こうした産状で我々にも馴染みの深い奇石、亀甲石は、表面が幾何学的形状に分画された房状空間に分かれたもので、西洋ではセプタリアン(Septarium)またはメリカリアと呼ばれる。(付記2)

この石の生成は次のように説明されている。
1億5千万年ほど前、メキシコ湾はユタ州南部にまで広がっていた。火山活動で噴出した溶岩が海に流れ込み、死滅した海生生物の遺骸が泥に混ざって沈殿した。これを核にして泥ボールが形成された。やがて海岸線が遠く南方に下がり、取り残されたボールは干上がって割れ目を生じた。再び海が戻ってきた。貝などの遺骸がボールの上に堆積していった。貝殻から溶け出た石灰成分がボールのヒビに入り込んでゆき、内部に方解石が晶出した。海が去り、ユタ州は大陸の内部になり、グレートソルトレイクのような塩湖が後に残った。泥と接触している部分の方解石はあられ石の薄い膜に変化した。こうしてセプタリアンが出来たのである。
…でも、なぜあられ石に変化したかはよく分からない。やはりフシギと言うべきか。

付記1:変化したのでなく、隔壁領域には最初からあられ石が析出したという説もある。
付記2:中国(や日本)では古来この種の石を亀甲石と呼んだ。割れ目(ないし分画)の模様を亀の甲に見立てている。余談だが、18世紀イギリスの博物学者で近代地質学の祖ともみられるジェイムズ・ハットン(1726-1797)の「理論」にエジンンバラ近郊の石炭層に産する亀甲石の団塊の図が付されているが、上の画像にそっくりのものである。彼は亀裂に詰まった方解石が団塊の外にまで達することがないことに着目し、これは沈殿ではなく熱によって融合した結果だと考えた。

この種の団塊の周りの粘土部分を取り除くと、下の画像のようなものがでてくる。詰っている「餡」の部分が玉髄のように風化に強い鉱物だと、風化の後にこの形が残る。この石もまた亀甲石(セプタリアム)と通称されるが、岩石学ではメリカリアと呼んでいるようだ。メリカリアを両断すると、上の画像の方解石部分のような模様が現れる。
ちなみに 16-17世紀のヨーロッパでは、北極地方には北極点の(と想像された)磁北山を囲んで海があり、その周囲を4つに分画された大陸が取り巻いていると考えられていた。この大陸は セプテントリオナリス(Septentrionalis) と呼ばれたが、語源は同じである。

付記3:バルトルシャイティス「アベラシオン」(1957年)中の「絵のある石」に「セプタリー」の名で出てくる。いわく「…線や斑紋の炸裂へと目が移る。セプタリーとは、方解石の浸潤、亀裂、暗色の岩塊のなかの明るい鉱脈の輝き、などをちりばめた珪酸質の瘤塊のことである。切断の角度によって図柄がちがってくるので、それそれの石は事実上無限のヴァラエティーを持つ。想像力はこれらの複雑な網目の中に思いのままの形象を見出す。結び目、脱けられない迷路、動物、人間、動物と植物とが入りまじる場面の全体。ぎざぎざのある物体のつくる円、ひとで、蛸、軟体動物のようなものが、不気味な暗号をここにくりひろげている。」(巌谷國士訳)
ロジェ・カイヨワの「石が書く」(1970年) に "septaria" の章があり、「亀甲石」と訳されている。(岡谷公二訳) 「方解石があちこちに滲透している珪土質の団塊を亀甲石 septaria と呼ぶ。」
山田英春の「不思議で美しい石の図鑑」(2012年)のセプタリアン・ノジュールの項に、「表面が削れて、内部の亀裂の形が表面に出てくると亀の甲羅のように見えるために、日本では亀甲石の名で通っている」とある。北海道士別市産の標本が紹介されているが、まさに亀の甲羅そのものの形をしている。ただ、割って内部の放射状の亀裂模様を観賞するものではない。

Melicaria

メリカリア(Melicaria) −メキシコ、チワワ州ユリムス産

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