398.珪亜鉛鉱 Willemite (USA産)

 

 

willemite

珪亜鉛鉱(あずき色)とフランクリン鉄鉱(黒)、
母岩はマンガン方解石
下の画像は短波紫外線による蛍光
 -USA、NJ、フランクリン産

 

珪亜鉛鉱は、その名の通り、亜鉛の珪酸塩鉱物である。二次生成物(結晶)として少量見出されるのが一般的だが、フランクリン鉱山では塊状で、かつ大量に産した。ここはむかし海底にあった金属鉱床が、酸化作用を受けた後でさらに変成作用を受けた特殊な地質条件にあり、そのことが本鉱の産状にも関係しているという。

紫外線を照てると強烈な黄緑色の蛍光を発する。あたりを暗くしないでもはっきり分かるほどで、赤色蛍光のマンガン方解石と相まって鮮やかな色彩美を発揮する(⇒参考)。蛍光鉱物のデパート、フランクリン鉱山にあって本鉱はその白眉といえよう。紫外線を止めても、暫くはぼうと燐光が残る。
ずっと昔のことだが、私が鉱物に夢中なのを興がっていた某氏の家に招待されたとき、ミネラライトと本鉱とを持参していった。部屋を暗くしてもらって、蛍光現象を見せた。湧き上がる感嘆の声。1週間後、某氏の手には「楽しい鉱物図鑑」が…。

本鉱はフランクリン鉱山で最初に発見され、1810年代にはすでに知られていた。しかしその後誤った分析がなされてマンガンの珪酸塩と信じられることとなり、間違いをそのままに 1829年、トルースタイト(Troostite)と名づけられた。
フランスの鉱物学者レヴィがベルギー産の標本を正しく分析して Willemite を記載したのはその翌年(1830年)だったが、後に同じ鉱物と判明したとき、こちらが正式名称に採用されたのはやむをえないところ。
なお、Willemite の名は、オランダ初代国王ウィレム1世(在位 1813-1840) に因んでおり、当時ベルギーがオランダ統治下にあった事情が関係している。歴史をひもとくと、この年ブリュッセルで革命が起り、翌1831年1月にベルギーは独立国家となった…。こちらは微妙なタイミングといわねばならない。 

cf.イギリス自然史博物館の標本(トルースタイト/フランクリン鉱山産)

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