397.紅亜鉛鉱 Zincite (USA産) |
紅亜鉛鉱はかつてニュージャージー州のフランクリンやスターリンヒル鉱山に大量に産し、亜鉛の原料として盛んに採掘された。しかし世界的には珍しい鉱物で、酸化亜鉛という単純な成分ながら、ほかに見るべき産地がほとんどない。1980年代に噴火したセント・ヘレンズ火山の噴出物中に本鉱が確認されたという。
人造品は「亜鉛華」と呼ばれ、白色顔料や亜鉛軟膏などに使われているが、歴史は19世紀以降と浅い。赤熱した金属亜鉛または亜鉛蒸気と空気中の酸素とを反応させて製造するそうだが、自然環境に単体亜鉛はまず存在しないから、やはりなかなか得難いものなのだろう。閃亜鉛鉱は風化するとふつう一足飛びに水亜鉛土や他の二次鉱物に変わってしまう。(参考)
天然の本鉱は不純物のために暗紅色を呈し、それが和名の由来になっている。たいてい塊状で産し、自形結晶は稀。上の標本はゆるい結晶面が見えているのだが、入手したときはその可能性に気づいたものの、いまひとつ確信が持てなかった。
先般、ハーバード自然史博物館で結晶標本を目の当たりにして、ようやく、これも結晶面であると得心した。間違いのない標本を見るのは、なによりの勉強だ。
美しい透明結晶がポーランド産(製)として数年周期で出回っている。これは塗料工場のラインパイプだか排気口だかの内面に付着したものが、定期点検で清掃・排除された際に市場に提供されるという。天然品ではないが、なかなかよい。鉱石ラジオの検波器として使えるそうだ。
約2年前、ナイジェリア産の天然結晶という触れ込みの標本が出たことがある。大阪ショーで母岩付きというのを手にとって見たが、私には自然物と思えなかった。その時業者さんは「分からないのよぉ」で通していたけれど。