402.綿入り水晶 Quartz (スイス産)

 

 

quartz

水晶 -スイス、サン・ゴタール峠、ネアトトンネル工事現場産
(レッチュベルク基底トンネル、フルティゲン側)

いわゆる 綿(わた)入り

同上 −接複数の微小水晶インクルージョンが見える
(撮影照明によって色づいて見えるが、実際は純白色 )

 

サン・ゴタール峠をはじめ、かつて旅人泣かせの難所揃いだったアルプス越えも、今では鉄道網や自動車道の発達で、すっかり気軽な旅になっている。

現在、スイスではアルプス縦断鉄道(NEAT/NLFA)の建設工事が着々と進められているが、完成の暁には走行距離の短縮や勾配区間の減少による高速化の恩恵で、南北往還がいっそう便利になると期待されている。例えばチューリッヒ−ミラノ間がわずか 2時間40分で結ばれるといい(現行 3時間36分)、さらに現在ほとんどトラックに依存し、かつ量的に飽和状態にある両国の貨物輸送状況も、大幅に改善される見込みだ。
この工事の目玉は、レッチベルク基底トンネル(34,6km)やゴッタルド(ゴタール)基底トンネル(57km)などの長距離トンネルである。特にゴッタルドトンネルは、土被り最大2300mという超高圧下を通すもので、地点によっては地層が大もめにモメたり、地盤が弱かったりする難工事を押し、1日平均約6mのスピードでどんどん掘り進められているという。

2年ほど前、そんなトンネル工事現場から水晶が採集された。現代の機械化されたトンネル工法は「仏にあえば仏を殺し…」式にあらゆる障害物を削ってゆくから、結晶鉱物が無事にお日様の下に出てくる機会はあまりない。優曇華(うどんげ)の花が咲くより稀なことかもしれない(←それはオオゲサ)。
伝わるところでは、トンネルの岩盤に水晶が顔をのぞかせているのを工事関係者が見つけ、それを聞いた学者筋の方が、通常は保安上の理由で部外者立入り禁止の現場に、なにかのツテで入り込み、休憩時間中に採集したものだとか。詳細地点は分からないが、ネアトトンネル、Frutigenサイドという。

このとき出た水晶は程度の差はあれ、たいてい白濁していたそうだ。
上の標本は全体がぼんやり霞みがかっているが、拡大してみると、白髪状のインクルージョンがもつれて、結晶を白くみせているのが分かる。透閃石だという。
興味を惹かれるのは、水晶の中に微小な水晶のかけらが散りばめられていることだ。下の画像で詳しくみると、中央下部の結晶は、水晶の先端が母岩(水晶)の結晶面に突き出ているもので、上側に並んでいるのは、結晶面に貼りつくように着床していたり、結晶内部に完全に潜り込んでいる水晶である。その並び具合は、結晶軸を同調させて共に成長したとは思えないから、大きな結晶が成長する過程で、溶液中を浮遊する(?)微小な結晶が繊維状の透閃石に絡みとられ、そのまま身動き出来なくなったものと思われる。

ちなみに山梨県の金峰山付近に産したこの種の水晶を、地元の方々は「綿入り」と呼んだ。cf. No.928 補記3

 

追記:上記のフルティンゲン Frutigenは「レッチュベルク基底トンネル」のベルン州側の開口部。対の開口はヴァレー州ラレンにある。2005年4月に貫通し、2007年に運行が開始された。手狭になった従来のレッチュベルクトンネルの400m下を通っている。全長34.6km。後にゴッタルド基底トンネルが開通するまで、世界最長のトンネルだった。
ゴッタルド基底トンネルは従来のゴッタルド道路トンネル(1980年開通)の600m下を通す鉄道トンネルで、1996年に掘り始め、2016年に開通した。線路長約57km。

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