405.グロシュラー Grossular (アフガニスタン産)

 

 

grossular

グロシュラー −アフガニスタン、クナール、ペック谷産

 

イスラエルの預言者モーセは約束の地カナンを前にした時、かの地に偵察隊を送り、もし見つかれば果物を取ってくるよう命じた。折りしもぶどうの熟する季節で、一行はエシコルの谷でひとふさのぶどうの枝を切り取り、またいちじくやザクロの実を携えて戻ったという(聖書、民数記)。これらは水の不足しがちな地方ではもっとも果汁の多い果実であった。

ぶどうやザクロは、後にシルクロードを伝って東方へ伝わり、砂漠の中のオアシス都市を彩る風物詩となる。ザクロの果汁はその味と保存力とにより、ぶどう酒に混ぜられたり、ザクロ酒に造って愛飲された。
ザクロの中国名を安石榴という(石榴は略称)。今日、回教徒として中国人の一部をなすイラン系の種族を「伊郎」・「伊蘭」、あるいは「安石」と称すように、安石(古くは安息)はイランを含むペルシャ地方の古い呼び名で、安石榴は「ペルシャから来た瘤のような実のなる木」の意味になる。

画像の標本はアフガニスタン産のざくろ石。近年このあたりから、肉桂色や青林檎色の美しい石が採れて市場に出回っているが、千古の昔にも遥々シルクロードを伝って東西に運ばれた石があったかもしれない。ここでその名の由来が「ペルシャから来た瘤(榴)のような石」だったらロマンなのだが、史実は「ザクロの種子のような赤い石」の意らしく(本草綱目啓蒙)、残念ながらアラビアンナイトの世界とは関係なさそうである。

「ざくろ石は火成岩の合分として初生的に産することもあるが、むしろ種々の岩石の変質作用に特有の鉱物として知られ、産状によって大体その種類が一定されるようである。すなわち灰ばんざくろ石は変質作用、特に花崗岩などの接触変質作用をうけた石灰岩に見出され、鉄ばんざくろ石は雲母片岩その他の変質岩に産出し、また苦ばんざくろ石はかんらん岩などの塩基性火成岩に多い。そのほか満ばんざくろ石は酸性岩石(花崗岩、珪岩)に、灰鉄ざくろ石はアルカリ性火山岩に、灰クロムざくろ石は蛇紋岩などにほぼ特有である。」と本邦鉱物図誌3(昭和15年 大地書院)にある。
ほかの産状もある…といってしまえばミもフタもないが、成分の供給源を考えるとき、こうした分類はひとつの基準として分かりやすい。
ざくろ石にはさまざまな種が存在し、産状もさまざま。しかし、しばしばザクロのように群れてコブをなす共通点がある、ともいえるだろう。

鉱物たちの庭 ホームへ