406.鉄ばんザクロ石 Almandine (USA産) |
No.405で「鉄ばんざくろ石は雲母片岩その他の変質岩に産出し…」と紹介したが、この標本は正に雲母片岩中にざくろ石の結晶粒が散らばっており、いわば教科書通りの良品。
層状をなす黒砂に埋もれたような赤い実は、ザクロに似て、噛めば血が出そうだ。(それはリンゴでしょ)
産地はアラスカのミトコフ島。地名はかつてロシア人たちが毛皮採集に押し寄せた頃の名残と思われる。
この島のざくろ石は、あるアメリカ人の老夫婦が一手供給している。夏のシーズンが来ると島に飛び、ブルドーザーを駆って石を掘る。そして2月のツーソンショーに出品するのが恒例の行事だという。2年前、もう年だし石掘るのもしんどいから、と引退を仄めかされたそうだが、今年もまたツーソンで元気な顔を見せていたとか。
年をとれば隠居を考える日もあろう。しかし、ひとたび石と縁を結んだ者、体が動く限りは島に出かけ、石との対話を恩寵とされるのではないか、という気がする。
補記:福島県東白川郡竹貫村(旧)では、黒雲母片麻岩中に変成斑晶として産し、イボ石と呼ばれた。
補記2:「花崗岩はもちろんすでに美しく価値がある。しかしながら、それ以上に喜ばしいといえるのは、鉄礬柘榴石を含む片麻岩である。この岩石は、地の部分もまざった結晶も、まったく同じように研磨されることが出来る。」(ゲーテ「ファン・ホッフ氏の地質学研究書」
1823年)。「雲母片岩はざくろ石に変化して、しばしば山塊を形成する。その中では雲母の性質はほとんど止揚されていて、些細な結合手段として、かの結晶の間に存在するのみである。」(比較解剖学断章より) いずれも木村直司訳)
補記2:ガーネットの結晶形は12面体と24面体とが基本になっているが(
cf.No.245、 No.895)、この産地では両方あり、複合した中間型のものが多いそうだ。結晶片岩中にブラックチェリーを想わせる暗い血の色の粒が入っている。
本文中の老夫婦は多年にわたってツーソンショーを賑わせた名物キャラだった。堀博士のお気に入り店だったらしく、通販リストに何度も標本が紹介された(同様の産状は世界各地にあるが、この島の標本がもっとも美しい、と)。2004年のショーでは、「寄る年波でこれが最後になるかもしれないから採り貯めていた最上品を持参した」との触れ込みだったが、2006年にも顔を見せたそうで、やはり通販リストに載った。その数年前から鉱山(私有)の売却を模索していたが、買い手がつかなかったらしい。鉱山名のベラ・ビスタは「眺めがよい」の意で、実際、風光明媚の土地という。
堀リストには 2008年、2010年、2011年、2014年にも登場したから、止めると言い出してから、少なくとも
10年は現役を続けたらしい。 (2022.1.1)