435.セラン石 Serandite (カナダ産)

 

 

serandite

セラン石−カナダ、モンサンチレー産
from Joe Cilen , then Mrs.Shannon collection

 

アメリカの東海岸に、ジョー・サイレンという鉱物愛好家があった。
1917年にニュージャージー州で生まれ、1997年に亡くなるまで、二次大戦中の兵役期間を除いて、ずっと同州パターソンに住んでいた。
翼の蒼いひな鳥の頃から鉱物趣味を始めた。ニュージャージーは世界に知られた沸石の大産地で、当時はまさにコレクターの天国だった。建設中の州間ハイウェイやワシントン橋に用いられる玄武岩・輝緑岩が盛んに切り出され、石切場や工事現場では標本の採り放題。かくて地元産の膨大な数の沸石類や東海岸各地のクラッシック標本が、彼のコレクションにおさまったのだ。

もちろんそれにとどまらない。あらゆる種類の鉱物、あらゆる種類の鉱物のあらゆる産地の標本が、彼の情熱の対象となった。新しい標本を手に入れるため、ショーやクラブの集会、シンポジウムには必ず顔を出した。ユーモアにあふれ、ショーのたび、新しく考えたサイテーのジョークを披露するので有名だった。ネタのほとんどは、いかに多くの標本商で地獄が賑わっているか、といったものだったらしいが…。そうして彼はおよそ3000種、 23,000点以上の標本を集めたのだ。

ジョーは生涯独身を通し、両親と一緒の家に暮らした。その家ときたら、山なす標本箱で足の踏み場もなかった。
あるコレクターの思い出話であるが、その人はジョーの家を訪ねたとき、すべての部屋に標本を収めた大量の箱が置かれているのを見た。冷蔵庫の上に、ベッドの下に、家中の棚という棚に、標本箱が敷き詰められていた。箱にぶつからずに部屋から部屋へ移動するのは、ほとんど不可能だった。
その人はニュージャージー産の鉱物に関心があったので、その種の標本を浴びるほど見せてもらうことが出来た。なにしろソーダ珪灰石だけで、20箱以上あったのだ。品質もサイズも、あらゆるレベルのものが揃っていた。これらの標本は、たいていの場合、誰にでも喜んで譲られるのだった。

半年ほど後、ある鉱物ショーでコレクターはひょっこりジョーに出逢った。
ジョーは3ドルのソーダ珪灰石を買おうとしている。口を挟まずにいられなかった。
「ねえ、ジョー。あなたは何千個もの鉱物を持っていて、ソーダ珪灰石だけで何百個もあるのに、いったいどうして、この3ドルの標本が買いたいの?」
すると彼は、顔を見上げて言ったそうだ。
「だってこれが好きだからだよ」 (Because I like it.)

僕はジョー・サイレンに親近感を禁じえない。

上の標本は彼のコレクションから出たもの。採集派の標本商、故デビット・シャノンの奥さんが長いこと自分のコレクションにしていた後、僕に回ってきた。

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