443.ガイロル石 Gyrolite (インド産)

 

 

gyrolite

水晶ライニング晶洞上のガイロル石 − -インド、プーナ産

同上 −部分拡大画像 
(濁沸石−左上白色−を伴う)

 

ガイロル石の名前はギリシャ語の gyrein (回転する)からきている。典型的な球状の結晶集合体をよく観察すると、薄板状〜葉片状の結晶の縁がいくつかずつまとまりながら、回転するように絡まりあっていることが分かる。ジャイロライトともいう。
ひとつひとつの結晶は紙のように薄いので、触ると柔らかい感触がある、しかし触ったとたんに縁が欠けてしまうので、標本はクリーニングしたり、硬いケースなどに接触しないよう保管しなくてはならないそうだ。

ムンバイ周辺のマラド−クラール・コンプレックスではごくありふれた鉱物で、プーナやナシクなどデカン高原の他の産地からも見つかっている。普通は白色で、鉄分やマンガン成分の混入が増すと緑色〜暗(茶)緑色に色づく。産状としてはぶどう石やオーケン石、まれに魚眼石を伴うが、Laumontite(濁沸石)以外の沸石類と共産する例はいまだ知られていないとか。

ひと昔前、JRの大阪駅構内が改装されてGare というショッピングモールがオープンしたとき、桜橋側の入り口付近に、アメリカ Nature Company社 の契約店が入った。自然科学百般のいろんな理科・実験機材や書籍、標本、教育的インテリア(?)を扱うお店で、ちょっとアカデミック寄りの白衣的遊び心の雰囲気が、インナー少年魂をソソった。2年後に契約が切れるとそのまま更改せずに店仕舞いしたが、惜しんだファンは結構多かったはずと思う。
この標本は閉店間際のカウントダウンセールで引き取ったものだが、実は開店したときからの展示品だった。売れ残りというと聞こえが悪いが、思うに、このテの地味な標本を欲しがる人は普通は専門の標本商さんを訪ねるもの、このお店の立地とお客さんの層、その売れ筋からはビミョウに外れていたということであろう。

鉱物採集フィールドガイドを開くと、「ガイロル石は、白色半透明、鱗片状の鉱物で、初めて採集したころは、日本では三か所くらいしか産出の報告がなく、珍しいものとされていたので、これまた狂喜乱舞した。おまけに緑色をしたものあって、ひょっとしたらツングース石という鉄を含むガイロル石で、別種かもしれないと一時は色めきたったが、残念ながらそんなものではなかった。」とある。
ガイロル石にさして珍しいという意識を持ってなかったので、読んだ時はちょっと意外に思った。無尽蔵といいたいインド産の標本行列に接しては、珍しいと考える方がムツカシイ。

補記:鉱物観察ガイド(2008)に、「現在(1980?)、関東地方で確実にガイロル石の採取できる産地」として南房総市の平久里中が挙げられている。
「鉱物採集の旅 関東地方とその周辺」(1972)の 14章で紹介された嶺岡山脈中の産地に同じと思しい。白い粒状の中性長石と淡褐色の金雲母の粒とがつくる岩石を切って、白色真珠光沢、へき開の明らかな細かい鱗片状結晶の集合脈が通る。これがガイロル石という。

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