444.魚眼石  Apophyllite-(KF) (インド産)

 

 

green apophyllite-(KF)

アポフィライト -インド、プーナ、パシャン・ヒル産

 

No.28で「プーナでしか採れない緑色の宝石」について書いた。その石がなんだったか、今の私は緑色の魚眼石という可能性もあったのじゃないかと思っている。

緑色魚眼石はプーナでしか採れないわけでなく、デカン高原各地に産出が知られている。しかし、結晶全体が一様に濃い緑色とくれば、たしかにプーナのパシャン・ヒルは一枚看板だった。ほかの産地のものは色が薄かったり、局所的な着色に留まっていることが多く、 例えば Jalgaon産は一様に染まっているものの色目がずっと暗い。(典型的な結晶形も産地によって少しずつ異なる)
発色の原因はカバンシ石と同じく微量に含まれるバナジウムで、概して濃度が高いほど緑色が濃い。デカン高原におけるバナジウムの平均濃度は300ppmというが、プーナ周辺ではその倍程度まで濃集し、パシャン・ヒル産の標本には 1600ppmも含まれているそうだ。ごく大きな晶洞に産出することが多く、そのため結晶が成長する際に比較的一定の濃度で(≒一様な発色をもたらす)バナジウムが供給され続けたとみられている。

緑色の宝石の話を聞いたのは89年。かのカバンシ石が、プーナの中心地(鉄道駅のあたりか?)からオーランガバード方面へ向う道を15キロほど北東へ行ったワゴリ村で発見されたのは、前年の秋のことだった。(⇒フラグメンツ参照)
一方、市の南西に位置するパシャン・ヒルの緑色魚眼石は、70年代すでに知られていたが、標本が多く出回ったのは80年代後半だった。当地の玄武岩はス(晶洞)だらけで、建築用石材として中級以下の扱いに甘んじていた。が、標本商のアドバイスがあって、その頃からデリケートな結晶鉱物(中沸石や魚眼石など)を手掘りし、標本市場に卸し始めた。作業にかかる人件費は上がるが、美しい標本が(インドとしては)高価に捌けるので、採算は十分にとれた。しかし住宅開発の波が丘陵に押し寄せ、89年の9月、閉山のやむなきに至った。
というわけで、時期的にはどちらももっともらしい。
伝説の正体を見極めるのは難しいだろう。とはいえ、私はほんとはどっちでも構わないのダ。

追記:日本では新潟県間瀬産の魚眼石が、やはりバナジウムのために淡い青色に染まっている。下の画像は、リンクしている「楽しい鉱物収集」さまの標本より紹介。ありがとうございます。
間瀬海岸は昭和40年代まで質の良い沸石が採れる、景勝の有名産地として知られたが、その後、海岸道路の建設で沸石をはらんだ崖がごっそり削られて風景が一変したという。今もコレクターの巡礼地の一つだそうで、ソーダ沸石や方沸石の美晶が出る。青-緑色の魚眼石は誰もが欲しがる目玉品だったらしいが、みんなが採っていったのでかえって珍しくなってしまったとか。

淡緑色の魚眼石 −新潟県西蒲原郡岩室村間瀬産

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