459.青金石 Lazurite (ミャンマー産)

 

 

Lapis lazuli ラピスラズリ

青金石(pa la dote hta) (磨き)
−ミャンマー、マンダレー管区、モゴック、ダッタウ鉱山産
(中央上の白色は照明灯の反射、右寄りの白い部分と
その周囲の滲みは自然な研磨効果)

lapis lazuli ラピスラズリ

青金石(あら磨き) 方解石、黄鉄鉱を伴う
−ミャンマー、モゴック、ダッタウ鉱山産

lapis lazuli ラピスラズリ

ラピスラズリ(ブッダの像) 
−ミャンマー、モゴック、ダッタウ鉱山産

 

近年、ミャンマーに足を伸ばして、ひすいや地元の鉱物を仕入れてくる邦人業者さんが随分多くなった。おかげで同地の珍しい標本は、欧米でよりもずっと入手しやすい環境が整っているようだ。いろんな消息が聞こえてくるようにもなった。ところがことラピスラズリとなると、いまだ黙殺に等しい状態にあるのはなぜだろう。
ミャンマー国内ではアクセサー等に一般的に使われていて、けして珍しいものでない、と聞くのだが、肝心の標本が少ない。原石はあまり流通しないらしく、市場に出るのはほとんど加工されたもので、それすら数が入ってこない。品質的にバダフシャン産よりランクが落ちるので業者がわざわざ手を出さないのか、あるいは産地を伏せて流しているのだろうかなどと妄想しているが、いまひとつ実情が見えない。まさかローカル需要で手一杯ということはあるまい。
また、ほかの宝石でもそうなのだが、産地を問うと「モゴック」の一言で片付けられることが多い。ときに「う〜ん、聞いたんだけど思い出せない…」とオトボケを聞かされたりもする。もっとも、「ほんとうの産地は採ってきた人だけが知っている」のがいまでもあたりまえなお国柄なのだが…。

ここでは出所の確からしい標本(磨き石ばかり)を載せた。
ひすいやルビーの集散地マンダレーから北東に約200キロ、車で5,6時間ばかり奥地に入ったモゴックの近く、タベイキン(タバンピン)という土地にあるダッタウ鉱山で採れたものだ。
ダッタウは古くから知られた有名なルビー鉱山で、ルビーとラピスラズリが一緒に産出するのは、おそらく世界でもここだけだろうという。ダッタウ・ラピスは粒斑状の青金石が白〜灰色の方解石中に散らばっているのが典型で、深く暗い色目のものが多いが、ときに明るいきれいな濃青色をみせる。
一説に、「タベイキンには2つの産地があって、一つは初生鉱床、一つは漂砂鉱床で、後者の原鉱床は現地人以外に知られていない」という。ダッタウは初生鉱床を掘る鉱山だった。今はすっかり寂れてしまったが、かつて透明度の高いルビーを目当てに坑夫が押し寄せた。無数のテントが立ち並び、日がな石灰岩を割り取る槌音が谷間に響いて絶えなかったそうだ。

上の標本は藍色がかった鮮やかな青。方解石の部分は錆色で、黄鉄鉱が風化した鉄錆に染まっているのだろうと思う。怪獣の卵みたい。
中の標本は、灰色方解石の脈と黄鉄鉱の微粒を伴ったラピスラズリ。典型的なバダフシャン産と比べて、青に深みがなく紫味にも乏しいが、その分青らしい青だといえる。
下の標本は(というより細工物だが)、半透明の白い方解石の地にラピスラズリが雪片状に霜降り、やはり黄鉄鉱を伴っている。よく見ると一方向に流れる白い筋が層状に連なって、ラピスラズリを切っている(膝下あたりに注目)。筋のひとつひとつは1ミリに満たない薄さの方解石だ。さらに雲のような楕円形の方解石のぶちが筋と直交する向きに浮いて大理石めく模様を描いている。No.372の標本と共通する規則性が感じられる。
ラピスラズリ本来の味わいある青紫色に、取り合わせの妙を得た半透明の白。ブッダの像だし、拝むように眺めて飽きない。お気に入りの一品。

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