479.ベリル Beryl (USA産)

 

 

Beryl ベリル

黄色のベリル(緑柱石) 
-USA、ニューハンプシャー州、アルステッド、ボーレガル採石場産

 

鉱物採集というのは、明らかに「宝探し」の要素を多分に含んだ行為である。それはあるいは研究かもしれないし、暇つぶしかもしれないが、同時にやはり、なにか値打ちのある、素敵な石が見つかるかもしれないという期待感、はちきれんばかりの高揚とわくわく感に、いつのときにも満たされた「冒険」だろうと思う。

「健全な男の子なら、だれでも一どは、どこかへいって、うずめられた宝をほりだしたいという、はげしい欲望がおこるときがあるものである。」とマーク・トウェインは語る。私は子供の頃、旺文社の図鑑に載っていた黄鉄鉱や水晶を見て、むやみと庭や野原を掘っくり返したクチなので、そして叶わなかった夢を抱えて大人になってしまったひとなので、標本の採集も購入も、いまだその延長としての、熱にうかされたような夢想を伴わずに済まないところがある。それはそれでよいのかもしれないが。
ただ問題は、この種の宝探し熱は、かりに一度、あるいは山ほど収穫が上がったところで、けして減りもなくなりもしないということだ。「その後、彼は故郷の村に帰り、長い生涯を静かに暮らしました」といった昔話の結末は、あれは願望に過ぎない。現実の人間は、心躍る冒険のあとには、すぐまた次の冒険を欲してやまない生き物であるように観ぜられる。それもまたよいのかもしれない。あ、よいよいよいっと。

この標本はアメリカのある標本商さんが主催した標本会で、彼自身が採集したベリルの結晶だそうだ。アメリカでは鉱物趣味のクラブ活動が盛んで、夢追いびと相集って鉱物産地を巡るちょっとしたエクスカーション(遠足)がよく行われているらしい。その世話役を標本商さんが担っていることも珍しくない。
日本にももちろん同様の採集会はあるが、こんなベリルはそうそう拾えるものじゃない。いいなあと思う。

cf. No.467

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