467.リチア電気石 Tourmaline (日本産) |
ときどき、鉱物を採集する夢を見る。起きるとすぐに夢の内容を忘れてしまう性質なので、採集に至る経緯はよく分からないのだが、たいてい歩いている道の途中で、突然その辺の土を「ここだ!」と掘っくりかえし、数十センチサイズの宝石質のリチア電気石やら手のひらほどもあるモルガナイトやらをざくざく採ってしまう。
あとはお約束、おおお〜〜と心のたけびを上げたところで目が覚めるわけだが、現実にはそんな見事なものを採集した経験がないのだから、我ながら欲が深いというか、代償行為というか昇華行為というか、現実とあまりに落差があるので惜しいとも思わないが、やはり間をおいては同じような夢を繰り返し見る。
「アルケミスト」の少年だったら、夢を解釈してくれる人に会いにいって、宝物を探す旅に出るところだが、あいにく私はその採集地点にさっぱり心当たりがない。いや、一度だけ知っている場所を掘った。以前住んでいた家の庭。子供の頃、埋もれた財宝を探してよく掘ったものだ。
そのかみ、毎週のように採集に出かけていた時期が私にもあった。が、いろんな落とし穴があって、今はさっぱりご無沙汰している。それでも夢に見るのだから、やはり心の奥のいずかたにか、まだ採集に行きたい気持ちがまどろんでいるのだろう。まあ、数十センチのリチア電気石なら、誰だって掘り出してみたいよね。
追記:茨城県の妙見山は、草下フィールドガイドを読み込んだ世代には垂涎の的と言ってよい鉱物産地だった。日本では岩手県崎浜、福岡県長垂と、この妙見山がリチウムを含むペグマタイトの日本3大名所だった時期があり、美しい紅電気石が採れた伝説がある。
崎浜は明治年間に美麗巨大結晶が見つかって、沈没船から漂着した外国産ではないかと疑われるほどだったが、昭和戦前に無名会の某氏が露頭を発見した。かの長島乙吉博士もカリフォルニア産に匹敵する超級標本を採集して、産地案内を書いている。
長垂も明治年間に(25年頃から)リチア雲母の産地として知られて、その後、紅・藍・緑のリチア電気石が出て昭和戦前の著名産地となった。
一方、妙見山は比較的新しい産地で、リチウム・ペグマタイトが発見されたのは戦後の昭和30年頃だったという。地元の採石業者が珪石の鉱区を申請したが、鉱物愛好家の耳目をそばだてることはなかったらしい。49年頃になって漸く草下氏らがこのおぼろな情報を元に産地の探索に入り、ほどなく桜井博士らも嗅ぎつけてスパイ合戦、結果、後者に軍配が上がった。詳しくはフィールドガイドの23章を参照。
露頭からピンク、青、緑、黄色のリチア電気石が出て、なかには中心がピンク、周辺が緑色のスイカ式もあったという。リチア雲母、モンブラ石、ポルックス石、リチア輝石なども出た。同志会の「関東と周辺の鉱物」(2017)に標本画像が載っている。
「それにしても、昭和 50年代になって、まだこんな珍しい産地が、私たちのお膝元の、関東地方の一角に眠っていたなんて、これだから鉱物探しはやめられないというものだ。」と草下氏はまとめている。ウルトラQの万城目君のコメントが二重写しに浮かぶ。cf.
ひま話
うらやましい。
産地のその後は例によって例の如くで、露頭は市の指定天然記念物となり網フェンスに囲まれたが、破られたりした。標本は今も市場にまま出回っている。(2022.1.3)