506.琥珀   Amber (ボルネオ産)

 

 

Amber (Succinite) こはく サクシナイト

こはく(サクシナイト) −マレーシア、ボルネオ島産

 

ボルネオ島で採れたこはくである。ラベルにはサクシナイト(Succinite)とあった。調べてみると、ラテン語のサクシナム(樹液)に因む言葉で、やはりこはくを意味するものらしい。(ローマ人はコハクをサクシヌス Succinus と呼んだ。ギリシャ人はエレクトロンと。)
こはくは樹液が土砂に埋没した環境にあって長い時間をかけて化石化して出来る。樹液が時と共に揮発成分を失い硬化したものをコーパルと呼ぶ(学名レティナイト retinite)。コーパルがさらに硬化を続け、成分中の有機環が架橋反応によって重合し、不活性になったものがこはくである。
コーパルはこはくより軟らかく、低い温度で溶け(150℃以下、琥珀は200〜380℃)、耐薬品性も劣る傾向がある。空気中でも劣化して表面にひび割れを作る(琥珀より進行が早い)
ボルネオ産のこはくはおよそ1,200-1,500万年前に繁茂した植物が起源で、比較的新しい。深海に堆積して陸地化した砂岩や粘板岩層から採集される。砂岩中のものは活性がなく琥珀となっているが、粘板岩層中のものはまだ揮発成分の残るコーパルという。
この標本がどの段階のものかは、例によって分からない。ただ、バーマイトと比べると、触感が軟らかく、ドミニカ産のこはくに近いように思う。断面の感じがいかにも弾力を帯びていそうにみえる。

追記:スレブロドリスキー著「こはく」によれば、Succinite は現在のバルト海沿岸地域に古代に生育したアカマツのラテン名という。そしてこの地域に産する良質の琥珀を指すようになった、と。サクシナイトからコハク酸が発見され、以後、良い琥珀はコハク酸を含むものと考えられるようになった。含有量は産地によって異なる。サクシナイトは黄色、橙色、赤みがかった色、白色、象牙色などがある。白色の琥珀は古くから高く評価され、混入物が少なく、健康によいと考えられていた。琥珀が硫黄を含むと細工物としての質が劣る。
ちなみに複数の小さな琥珀を加熱して軟化させ、圧力をかけて融合させたものをアンブロイド(擬琥珀/再生こはく)と呼んで区別することがあるが、一般に識別は難しい。アンブロイドは琥珀より硬質で丈夫なことがあり、ビクトリア朝時代の宝石やパイプの柄によく用いられた。

バルト海産の琥珀は赤外線吸収スペクトルに「バルティックショルダー」と呼ばれる肩状の水平ピークが現れる。これはコハク酸の吸収スペクトルに相当する。

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