507.蛍石 ブルージョン Fluorite var.Blue John (イギリス産)

 

 

Fluorite var. Blue John 蛍石 ブルージョン

ブルージョン -イギリス、ダービーシャー、キャッスルトン産

Fluorite var. Blue John 蛍石 ブルージョン

Fluorite var. Blue John 蛍石 ブルージョン

蛍石(ブルージョン) −イギリス、ダービーシャー、ウィンナッツ・ワン脈

 

イギリス、ダービーシャー州産の「ブルー・ジョン」と呼ばれる蛍石の原石である。
典型的な英国紳士のことを俗に「ジョン・ブル」という。それをもじって「ブルー・ジョン」...なのかなと漠然と思っていたが、調べてみるとさにあらず、語源はフランス語の"Bleu Jaune"(ブル・ジョォン) 「青と黄色」であるらしい。青色や黄色の縞模様のある石という意味なのだろう。しかしなにゆえフランス語? そしてなぜそれが "John" になるのか? ありえない...
ついでに言えば、キャッスルトンに産するこの名高い蛍石の色は、紫をベースに灰白色と黄色であって、青はない。疑問のふくらむところです。(cf.追記)

ブルー・ジョンはキャッスルトン郊外のマム・トーアの丘に出る準貴石材で、この地で鉛を採るために坑道を掘っていた鉱夫によって発見されたと伝わっている。
現在、キャッスルトンに穿たれた鉱山のうちのいくつかが人気の高い観光スポットとして公開されているが、そのひとつトリーク・クリフ坑では年産500kgほどのブルー・ジョンが掘り出されており、多くの縞模様を重ねた鉱脈が容易に観察出来るという。
縞模様は蛍石の結晶が何百万年もかけて積層を続けた合間に油膜が挟まって生じたものだ。
美しい縞目のブルージョンは1750年頃から装飾品に加工されてきた。模様には14のパターンがあるという。19世紀のビクトリア朝代に大変な人気を博し、当時製作された優品がウィンザー城やホワイト・ハウス、バチカン宮殿など錚々たる建築物の内装を飾っている。

ブルージョンは230度に熱すると色が変わり、ピンク〜赤色を呈する。昔の職工は乾燥処理の工程で変化に気づいたと言われるが、この温度まで上げるとガスが発生して塊を破砕することがあるので、あまり利用する機会はなかったようだ。

上の標本は紫と灰白と淡黄色の典型的な縞目を見せている。上面には立方体状の結晶面が観察できるが、これはブルージョンにはありそうでないもの。結晶の角が磨耗しているように見えるのは、標本商さんによると、表面に付着していた有機物(油成分)を取り除いたためだそうだ。
下の標本は典型的なパターンを示すもの。

追記:木下学名辞典(1955)は、Blue John を青蛍石と訳し、菫色を帯びる濃青色の蛍石、としている。
あるイギリスの標本商さんは、語源は不明としながら、おそらく地元の鉱夫がつけた愛称で、黒色の閃亜鉛鉱を「ブラック・ジャック」と(あるいはアメ色のものを「ルビー・ジャック」と、タンバンを「ブルー・ジャック」と)呼ぶことに慣れていたので、ブルーのジョンと洒落たのではないかと言っている。(ジョンもジャックもイギリスにはありふれた名で、それぞれヨハネ、ヤコブに由来する。ジャックはジョンの愛称でもある)。

追記2:ベックマンの「西洋事物起源」、ガラスのカッティングの項に、蛍石や発光石のトピックがあり、蛍石を用いた容器や装飾品の製造は 1765年にダービーシャーで始まった、と述べられている。製品はイギリスで spar ornament と呼ばれ、時にブルージョン blue john (青い恋人・むらさき蛍石)とも呼ばれる、とある。

cf.イギリス自然史博物館のブルージョンの水瓶 cf.イギリス自然史博物館の原石標本

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