519.自然蒼鉛2 Bismuth (ボリビア産ほか)

 

 

Bismuth vein with Quartz crystals ビスマス 自然蒼鉛

ビスマスと水晶 -ボリビア、タスナ鉱山産

Bismuth  ビスマス 自然蒼鉛

ビスマスの結晶 −カザフスタン、ベツパックダーラ砂漠、カラ・オーバ産
(撮影 ニコちゃん)

 

ある元素を別の種類の元素と区分するものは、原子中に含まれる陽子数の違いである。例えば、6個の陽子で構成される元素(原子)は炭素であるが、7個の陽子を持つと窒素になり、8個になると酸素と呼ばれる。原子の主要構成要素には陽子以外に中性子や電子があるが、陽子数が同じで中性子数が異なる原子は同じ元素の同位体であるし、もし陽子数が同じで電子数が異なっているとすれば、それは同じ元素で電荷バランスが相違した(イオン化)状態である。ただ陽子数の違いが、元素の化学的性質をまったく異なったものにする。自然界には陽子数1から92に至る元素が存在している(途中、歯抜けもあるが)。

一方、陽子と中性子、陽子と電子の数の間にはある種の均衡があって、どんな組み合わせでも可能なわけではない。陽子数と中性子数が極端に異なる元素は存在しないし、数に差がある同位体ほど不安定で壊れやすい(放射性を持つ)傾向がある。元素の電荷バランスがとれた状態では、陽子数と電子数は一致する。成立しうる両者の数の差は、その元素が周期律表のどの列にあるかでほぼ決まっている。
また陽子数がある限度を超えると元素は不安定になり、すべての同位体が放射性を持つ。いいかえれば安定同位体が存在しない。その境界にある最大の安定元素は、一般に原子番号=陽子数83のビスマスだとされている。ただし厳密にいうと、自然界に存在する唯一のビスマスである 209ビスマス(あたまの209は陽子数と中性子数の和で質量数と呼ばれる)は、非常に緩慢なペースで崩壊してゆくことが実証されているので、これを放射性元素に含めると、最大の安定元素は原子番号82の鉛ということになる。

原子番号81から92の間に存在する天然の放射性核種は、いずれも数億年〜数十億年程度の、地球年齢に比すべき長い半減期の核種を祖先に持っている。しかし 209ビスマスの半減期は1019年レベルで(約1900京年という報告がある)、はるかにはるかにはるかに長い。私たちがビスマスの標本に計数管をあてても、壊変が起こったことを示す放射線を検知することはけして出来ないだろう。

上の標本はボリビア産のビスマス塊で、秘蔵品のひとつ。標本商さんは結晶面が出ているというが、私にはへき開面(破面)のように思われる。
画像の上下面から中央に向かって水晶が伸びている。その間(の岩の亀裂)をビスマスの脈が埋めている。産状を推測すると、亀裂部分を通った熱水からビスマスや水晶が晶出したものだろう。どちらが先かはよく分からないが、水晶は200℃前後の比較的低温の環境でも晶出しうるし、ビスマスの融点は271℃と低いので、溶融状態にあるビスマスの間にあとから水晶が晶出したと考えることも、先に生じた水晶の間をビスマスが埋めたと考えることも出来るだろう。

下の標本は自形結晶面が見えているもの、と考えられる。(自然に)再結晶したものかどうかは不明。

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