575.葉銅鉱 Chalcophyllite (フランス産) |
図鑑に載っている鉱物種の数は概ね 200〜300種あたりが一般的だと思うが、逆にどんな図鑑にも必ず載っている一般的な鉱物というと、せいぜい
100〜150種くらいではないだろうか。
これは愛好家の立場でやや大目に見積もった数字なのだが、例えば益富地学会館認定の鉱物鑑定士試験のクラス別基準表を見ると、初心者クラス(と思われる)の8級で
21種(グループ)、7級で 35種、中級クラス(と思われる)の6級で
52種、5級で 53種の鉱物が掲げられているから、ざっと7級までの
50種強が一般的なレベルで、ある程度足を踏み込めば 100〜150種が視野に入ってくる、と考えていいのかと思う。そういう見方をすると、鉱物図鑑は一般の範囲をちょっとだけ超えて、希産種や話題性のある種を多少なり加えた仕立てになっているわけで、それでこそより深い知識を求める愛好家の要望を満たすことが出来るのである。
だからどうというのじゃないが、どの程度まで鉱物種を取り上げれば適当か、つい考えてしまう。ひと口に鉱物
4,000種とは言うが、ほとんどの鉱物は標本を拝む機会すらないのが現実で、仮に見たとしても特徴を掴めないものが大半だろうから。(その点では日本の鉱物図鑑は日本産の珍しい鉱物が載っているのが、海外の図鑑にない特徴)
それはさておき、本鉱は図鑑にはあまり紹介されないが、MR誌のような専門誌やマニアックな鉱物本には頻繁に登場する鉱物である。理由は簡単で、珍しいけれどもかなり美しいからだ。六角板状の結晶で特徴的なエメラルド緑色を呈し、時にキャベツ状というのかバラ状というのか、結晶が重なり寄り添ってステキな鞠を作っている。あまり大きな結晶を作る種ではないので、紙誌に載っているのはかなりの拡大写真になるが、とにかく相当に美しいことは確かだ。ときに六角板の面に正三角形の条線が現れていたりする。
学名Chalcophylliteは和訳すると葉銅鉱で、その通りの和名が与えられている。また雲母銅鉱(copper
mica)とも呼んで結晶形状を表している。
成分は銅とアルミの含水砒酸・硫酸・水酸塩であり、組成式は、Cu18Al2(AsO4)3(SO4)3(OH)27・33H2O
と複雑な式が提示されている。水酸イオンと合わせて相当量の水分を含んでいることが分かる。水分が飛ぶと結晶の透明度が落ちてゆくそうなので、保湿管理が必要だ(アクリルケースなどに密封しておくとよいだろう)。
本鉱は銅の初生鉱物を伴わずに産することがあり、銅の二次鉱物からさらに変化して生じた二次生成物との見方がなされている。水和分が多いのはそのせいだろうか。
これもまたコーンワルのクラッシック希産種鉱物の一つ。
補記:サルジーニュはカルカソンヌの北方 15km にある、赤銅鉱を帯びた酸化帯を露天掘りする金山である。葉銅鉱の最初の標本が採集されたのは 1995年という。青針銅鉱、藍銅鉱、孔雀石、パルノー石等のマイクロ結晶を伴って産し、数年の間美しい二次鉱物標本が市場に出回ったが、2004年に閉山してしまった。
追記:IMA リストに記載された鉱物種はとうに 5,000種を超えている。(2018.7.1)