583.赤銅鉱 Cuprite (コンゴ産)

 

 

Cuprite 赤銅鉱

赤銅鉱−コンゴ、シャバ州産

 

大げさな言い方だが、宇宙に存在するあらゆるものは、いつでもつねに周囲にある物質と相互作用を行っている。詩的にいえばエネルギーを呼吸している。エネルギーとはかなりの程度抽象的な概念なので、私たちの感覚に即して言い換えると、光や熱をやりとりしている。有機物−いわゆる生物はエネルギーのやりとりによって、つねに部分的な質的変化を生じているが、鉱物の場合は必ずしもそうでない。むしろ変化しないことの方が多い。しかしそれでも、つねに光や熱を交換しあっている。

だから? 
いや、別にどうということはない。ただ、私たちが鉱物の色や輝きを愛でるとき、その現象は鉱物が、それぞれ固有のやり方で周囲と交感しあうからこそ起こっているのだと、改めて強調したかったのだ。一般に鉱物は変化しないこと、永遠性がひとつの売りと考えられているが、それは周囲からの隔絶によって実現されるのではない。動的な平衡によって成立しているのである、と。

鉱物の(物質の)色は、光との相互作用によって与えられる。鉱物は与えられた光のうち、ある成分(波長)を吸収し、ある成分を透し、ある成分を散乱(反射)させる。ときには与えられた光を別の波長の光に変えて返すこともある。その按配が、鉱物の色や透明性を支配している。
だから鉱物の色は、まずどんな光が与えられるかによって違って見える。

そこでこの赤銅鉱だが、白熱灯のように赤色成分の多い暖かな光の下では実に美しく見える。活き活きとした赤色に輝き、結晶は半透明に透けてみえる。ところが蛍光灯の下におくと、様子がまったく変わる。結晶はもはや赤色には見えない。彩度の低い沈んだ赤褐色に見える。そして透明感がなくなり、結晶の表面で蛍光灯のぎらぎらした光を強く照り返す。柔らかな内面を曝すことを冷然と拒否するかに見える。
もし、このような光の変化を生きていると表現することが許されるなら、実際、赤銅鉱の結晶は白熱灯の光を浴びたときに、劇的に生命を与えられるかのようである。赤銅鉱に血が通うのだ。

Cuprite 赤銅鉱は、ラテン語のCuprum 銅を語源としている。酸化銅という単純な組成で、銅鉱石としてみると、非常に純度の高い有用な鉱石だ。二次的に生成するもので、美しい結晶形をとることは比較的まれだが、コンゴでは上の標本のように八面体の素晴らしい結晶を産する。貴重な銅の華。

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