582.針銅鉱 Chalcotrichite (USA産)

 

 
Chalcotrichite 針銅鉱
針銅鉱 −USA、AZ、レイ鉱山産

 

世に毛鉱(Jamesonite)という、灰色の茨か棘がもじゃもじゃ茂ったような鉱物がある。実に地味な鉱物なのだが、同じような形状でも色彩が伴うと、例えば、ハイダルカン石ブロシャン銅鉱青針銅鉱のように、たいへん美しい標本になる。色は大切である。ことに鑑賞主義の鉱物愛好家にとって、そうだ。もともと宝石や鉱物への興味は、色と光(輝き)とから始まっている、と思う。これはクンツ博士も同意見のようだ。

散髪屋さんなどで、髪の毛を刈り整えたときに床に散らばった短い毛の束を拾い上げて、ガサガサした石の上に載せてみれば、毛鉱という言葉は実に見た目に近い表現だということが分かる(もっとも日本人の髪の色は毛鉱よりもずっと黒いが)。イメージとしては、No.172のサハロフ鉱もほぼ同じだ。
もし青く染めた毛を集めて同じようにしたら、多分、青針銅鉱そっくりになる。しかし、どうもそれは青針銅鉱のイメージにそぐわないのではないか、という気がする。和名として青毛鉱より青針銅鉱が好まれる所以だろう。(cf.No.581 青針銅鉱

上の標本は赤銅鉱(Cuprite)の類で、成分と形状とから、「Chalcotrichite :毛髪に似た銅の石」と呼ばれるもの。青針銅鉱の赤色バージョンと思えばいい。ただし、こちらは酸化銅という単純な組成。
和名も青針銅鉱と同様に、毛ではなく針のイメージが与えられて、針銅鉱と呼ばれることが多いが、毛赤銅鉱、毛状赤銅鉱という呼び名も、(青毛鉱に比べると)ある程度使われている。
その辺りの事情を一言で説明するのは難しいが、本鉱には赤銅鉱という種名が別にあって、その毛状(針状)のものという由来を描写するには、針銅鉱では不十分、悪くすると別種の誤解を与えかねない(針銀鉱、針鉄鉱と並べて)、ということがあるだろう。なぜだか、針赤銅鉱という言い回しはないようだ。
しかし、もっと直感的な理由としては、人間の髪の色に赤毛は普通にあるけれど、青毛は天然にはまずないことを挙げたい。そして鉱物質となれば、なんたって、「アヲハリ」である。

ちなみに、針状のルチルで金色にきらきら光るものは、欧米では「ビーナスの髪の石」と呼ばれている。⇒No.316 金髪が普通に見られ、その美しさを賛賞され、金羊が財宝視される土地に生まれたらしい表現である。

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