10.鶏冠石  Realgar   (中国産)

 

 

昔の人は、私の形と色が鶏のトサカのようだと思ったのでしょうね。

鶏冠石 −中国、湖南省石門産

 

 

鶏冠石といえば、アメリカのネバダ州、と言っていたのは昔の話で、今ならためらいなく中国産の標本を第一等に挙げる。透明感があって、かつ結晶が鋭い。時には数センチ大の巨晶も珍しくない。
あるとき、銀行で待ち時間に朝日グラフを繰っていると、鉱山の紹介記事が載っていて、鉱坑の壁面にびっしりと赤い結晶がくっついている写真が添えられていた。あるところにはあるもんだ。

写真の標本の中央下部に絹糸状の白いゴミがついている。入手当時、このゴミは未命名の新鉱物とされていた。今では名前もついていることだろう…。(1999.3)
(→後記: どうも新鉱物でなく、Picropharmacolite だったらしい…)


追記:楽しい鉱物図鑑(1992)にはネバダ州ゲッチェル鉱山の標本が掲載されて代表的に扱われているが、ちょうどその頃(1980年代末)から石門産の鶏冠石が西側市場に出回るようになった。中国は80年から対外開放政策が始まり、それからの10年くらいがコレクターにとってのかき入れ時だったと思われる(ロシアはこれより数年遅れた)。 
石門の街から北に 32キロにある白雲郷鉱山は遅くとも6世紀頃には開かれて砒素を採ったといわれる。1950年代、中華人民共和国の国策で砒素産業が興り、70年代には 4,000人の人々が鉱山周辺に暮らした。2004年にいったん閉山し、私企業化して再開されたが、2010年に再び閉山。今になって、実は多くの住人が砒素公害で苦しんだことが世間に知られるようになった。日本の土呂久と同様、「お国のために」の一声で民草は圧される。
91年のツーソンショーには夥しい数の美麗標本が出回り、共産する犬牙状の方解石との組み合わせが人気の的であった。一時閉山した頃に品薄感が出たが、その後また盛り返した。閉山した今でも標本は採られているのだろう。
楽しい図鑑に、「変質して黄色のものになるが、これは石黄でなくヒ素の硫化物と酸化物の混合物」とある。石門では石黄の美麗標本も出たが、鶏冠石とは共産しないそうだ。(2018.4)

追記2:日本では群馬県甘楽(かんら)郡下仁田(しもにだ)町の「西の牧」鉱山(古く西牧(さいもく)鉱山と言った)が、宮城県の文字鉱山とともに数少ない鶏冠石の鉱山だった、と「鉱物採集の旅 関東地方とその周辺」(1972)は述べている。下仁田といえばネギとコンニャクが有名だが、かつては本鉱を花火の材料や発煙材として盛んに採掘して精製していたそうだ。(※補記1)
付近は安山岩質で、鶏冠石のあるところは激しい熱水作用のためにザクザクになっていて脆いのだが、1930年代頃に鉱山の一部でかたい灰色の石英脈が見つかったことがあったという。
「この石英脈のすき間にはあけぼの色で透明の鶏冠石、オレンジ色に輝く石黄の結晶がまばらについており、まるで夢のように美しかったのです」と櫻井博士は書いている。
そしてごく稀に、「黄金色やレモン色をした毛のような鉱物」が出た。若林鉱だった。(2022.5.1)

補記1:安東伊三次郎 「鉱物界之現象」(1906)には、次のようにある。
「硝石及び硫黄華と混じて熱すれば、美なる八光を発するをもって、花火、及び信号火に用い、また更紗印刷、散弾、脱毛膏薬などに用いらる。現今は亜砒酸に硫黄を加え熱して製出せらる。天産のものは無毒なるを以って中国人はこれをもってコップを製することありという。」
…いや、無毒ってことはないのでは?

cf. 653 鶏冠石  No.587 石黄

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