34.方解石<貝殻>  Calcite   (USA産)

 

 

方解石 −USA,フロリダ州産

 

大きな貝殻の形をしている。周りに小さな貝殻の形も見えるだろう。貝殻形の内周から、中心に向かって黄色透明の方解石が成長している。中心部が空いているので、成長した結晶の頭のギザギザが、サメの歯のように並んでいるのがわかる。裏側には、灰色の砂と沢山の小さな貝殻がごちゃごちゃと重なりあってくっついている。一種のセメント溶液に浸されて固まったような感じだ。産地はケープ・カナベラルという半島の岬である。
状況証拠は以上。どうしてこんな標本が生まれることになったのか、さあ推理してみよう。

cf. テラ・ミネラリア2

補記:この貝殻は Mercenaria Permagna という種だそう。産地は洪水のために流されてしまったとか。2010.1.20

補記2:堆積土壌中から出てくる化石の中には周囲をカチコチの石灰質コンクリーション(凝結質ノジュール)で包まれているものがしばしばある。その中央にある貝殻化石や甲殻類化石などは、土壌の圧力で押しつぶされもせず、空間的な形状配置を保ったまま綺麗に保存されているという。ノジュールを固めた炭酸カルシウム(方解石)は、これら貝殻や甲殻を構成する成分由来ではない(そうであるなら、殻が激しく溶食されているはずだ)。
そうではなく、遺骸に含まれていた有機物が、嫌気性バクテリアなどの作用で分解されて重炭酸イオンを生じ、化石の周縁に向かって拡散して、周囲の土壌から供給されるカルシウム成分と反応して沈殿、土壌を球状に固めたものとみられる(殻類の溶食速度よりもはるかに素早く)。この反応は化石を核として重炭酸イオンが拡散して、カルシウム分と出会うフロント領域で起こり、ノジュールの径は遺骸中にあった炭素の量によって定まる。
球状コンクリーションの形成は数か月〜数年単位で完了するとみられ、これによって内部に閉じ込められた化石は周囲の環境変化や圧力から保護されて、保存性のよい化石となるらしい。

一方、この標本の場合は、明らかに貝殻部分が溶食を受けており、貝殻成分がいったん溶け出した後に再結晶したものと考えられる。
ドイツ、フライベルクにある鉱物博物館テラ・ミネラリアで、この種の貝殻方解石が堆積性の母岩に固定された、産状のよく分かる標本を見た。母岩は明らかにコンクリーション化してコチコチに固まっていた。その炭酸成分は遺骸と貝殻との両方から供給されたと考えられる。貝殻部分の保護・保存効果の発現は間に合わなかったらしい。 cf. No.290 グレンドン石    (2023.7.10)

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