45.トパーズ Topaz (中国産) |
むかーし、あるところで市民鉱物講座みたいな集まりに参加したとき、水晶、トパーズ、長石の1センチ程度のかけらが教材として配られた。3つをセットにして小さなビニール袋に入れてあった。ところが恐ろしいことに、教材を準備しているとき、どういうわけか水晶とトパーズが混ざってしまったそうで、「もしかすると、水晶が2個とか、トパーズが2個入ってるセットがあるかもしれません。気がついたら言ってください。交換しまーす。」というのであった。
セットを作った人たちは、自分たちの仕分けにあまり自信がなかったのである。素人にそんな代物を識別せよと求めるのはかなり酷な話だが、中には猛者もいた。参加者の一人が、「これ両方トパーズです」と申告し、見事その通りだったので、講師の先生から大変に誉められた。どうしてわかりましたか、と訊ねられると、「そりゃあ見たらわかります。輝きが違いますよ。」と鼻ぴくぴくであった。年季の入った鉱物マニアであろう。
水晶とトパーズは、もちろん別の鉱物である。トパーズの方が硬く、屈折率が高いので輝きも強い。比重も大きい。トパーズには一定の方向に割れやすい性質があるが、水晶にはない。とはいえ、1センチ以下のガラスの破片みたいなものを、見ただけで区別するのは、やはり大変難しいことだといわねばならない。
滋賀県の田ノ上山は、トパーズの産地として世界的に有名だが、江戸時代、この山で水晶と一緒に採れるトパーズは、硬くて加工しにくかったので、質の悪い水晶と思われて、ポイポイ捨てられていたそうだ。このように、細工を商売にしている人たちだって、そうと知らなければ気がつかないものなのだ。
写真のトパーズは、中国産の結晶標本で、大きさは4センチくらいである。これならば、水晶との区別はそう難しくない。結晶の形が違うし、透明感にも違いがあるし、結晶面に条線がある場合は、縦に入っている。水晶では条線は横に入るから、知っていれば有力な識別基準になる。
追記:90年代の中頃は日本の鉱物ショーでも中国産の標本をたくさん見かけるようになっていたが、扱っている業者さんは日本人が多かった。アジア大陸に近い地の利を生かして、中国やらミャンマー(ヒスイ)やらタイ(宝石ルース)やらへぱっと飛んで仕入れてくるらしかった。そんな老舗業者さんの一人から購った品。産地の元陽(yuanyang)については
mindat
をみてもトパーズに関する記事がない。餅は餅屋、アジアはアジヤということか。
と思っていたのだが、実はどうやら中国南部(雲南)産とされたトパーズやベリルの標本は、たいていミャンマーから越境してきたものであるらしい。90年代、ミャンマーからの輸出が厳しく禁じられていたこともあり、密輸が随分と盛んだったという。中国では当然中国産として売られたであろう。そう思って見ると、この標本の結晶形って No.215
のミャンマー産にとてもよく似てるんだよなあ…
今ネットを検索すると、元陽は雄大な棚田の風景で有名な観光地になっているらしい。(2018.4)