66.斑銅鉱 Bornite (ロシア産) |
斑銅鉱は、青や紫のメタリックでカラフルな色彩が特徴だ。新鮮な(割ったばかりの)面は赤みを帯びた金色だが、比較的短期間で青竹色に染まる。かつて、これをピーコック・オア、孔雀羽色の鉱石と呼んだ。なかなかセンスがよい。
ところが最近は事情が変わって、黄鉄鉱などを酸化処理して人工的に孔雀羽色を出した類似の鉱石が、ファンシーショップに沢山並んでいる。この頃はピーコック・オアというと、こちらの酸化処理品を指し、もともとの斑銅鉱は、ただ斑銅鉱と呼んで区別しているようだ。本物よりいっそ派手で綺麗なので、机の上に飾ったりするにはいいと思うが、色彩がやや単調。趣きがあるのはやはり本家の方だと、お節介を申し上げたい。
兵庫県明延鉱山では、鉱石のことを「はく」と通称した。斑銅鉱は「しそばく」、「とかげノ」と呼ばれた。紫色の輝きが紫蘇に、あるいはとかげの体表の金属的な光に似ていたからだろう。ちなみに黄銅鉱は「なたねばく」、黄鉄鉱は「どうきん」「りゅうか」「やまいろ」などと呼ばれた。
欧州圏では古くは
kupferkies(黄銅鉱)の一種とされていたが(1725
J.F.Henkel)、後にさまざまな名で呼ばれるようになった。
peacock ore のほかに、purple copper ore (紫銅鉱)、varigated
copper ore (斑銅鉱 1802 アウイ)、buntkupfererz (彩ある銅鉱
1791 ヴェルナー)、erubesciteなどの名があった。ビューダンは
phillipsite とした(1832)。Bornite の名は 1845年にハイジンガーが与えた。オーストリアの御用鉱物学者イグナーツ(イグナチウス)・フォン・ボルン
に因む。原産地はボヘミアのクルシュネ・ホリ(エルツゲビルゲ:エルツ山地)とされている。
cf. No.730 ナギャグ鉱
追記:ジェスカスガン(Dzhezkazgan)は 1908年に発見された巨大な銅鉱床で、ペルミ紀に堆積した砂岩中に10層の鉱体が重なっている。鉱体の広がりは10x10kmにわたる。20年代に開発が始まり、30年代には多くの政治犯がこの地の強制収容所に送られて過酷な作業に従事したという。Wiki 等によるとジェスカスガン市が設立されたのは 1938年で、73年に市の南東地区に大規模な採鉱・冶金施設が建設されて、銅の精錬事業が行われた。
斑銅鉱の自形結晶はわりと珍しいもので、数センチサイズとなると世界的に稀であった。ところが1980年代からこの産地の標本が西側市場に出回るようになって常識は一遍に覆された。90年代前半は2,3センチクラスの結晶が無尽蔵と言えるほどに売られていた。多くは水晶の晶脈に載って、青いトカゲノの輝きを放っていた。しばしば
57鉱山の標識が見られた。その後、1996年に 65鉱山産とされる標本が出たのが最盛期だったとみられる。同年は
21鉱山産の標本も出た。
2000年代以降、出回る量が減ったが、原因はよく分からないようだ。採りつくされたはずはない、と言われているが…。(2018.8.15)