67.自然銀と自然砒  Silver & Arsenic  (ドイツ産)

 

 

自然銀と自然砒 −ドイツ、ザクセン、ハルテンスタイン産

 

入手したときの鉱物商さんの説明では、すでに閉山された廃坑に潜ったアマチュアのコレクターが採集してきたものという。黒い自然砒の塊を酸で溶かし、樹状結晶した自然銀を浮き出させ、美しいオブジェに甦らせた。

「楽しい鉱物図鑑」の15ページに自然砒の写真がある。もともと銀として出来た鉱石が砒素に置きかえられたものとの説明があり、自然銀が溶けて空ろになった羽毛状の痕跡が見える。
上の標本は、自然銀が残っている状態と考えられる。

 

追記:その昔、といっても 1948年から90年にかけてのこと、ドイツは東西に分かれていた。二次大戦後、ソビエト連邦の占領下にあった地域がそのまま社会主義国に横すべりしたのである。ザクセン州は東ドイツ南端の州で、12世紀頃から鉱業が発達したエルツ山地(エルツゲビルゲ)を挟んで南のチェコスロバキアもまた社会主義の国となった。
エルツ山地西側のシュネーベルク-シュレマ地域にはかつて銀・コバルト・ニッケル・ビスマス・ウランを掘った鉱脈が残っていたが、アメリカとの冷戦下、ウラン鉱石採集のためにソビエトの主導でひどく掘り返された。古い鉱山が再開され、新たな鉱山が開かれた。地下はトンネルだらけになり、ために古い鉱山町オーベルシュレマはあちこちで陥没が起こり、1952年には住民の居住地域を移し替えねばならない有様だった。地上では至るところに巨大なズリ山が出現し、地域の環境はひどく汚染されてしまった。

その後、ウラン探査は数キロ東のアルベロダ・アウエや北のハルテンスタインに移った。これらの地域では bi-co-ni (ビスマス・コバルト・ニッケル)やピッチブレンド(閃ウラン鉱)の鉱脈が掘られ、相互に連絡する坑道が地下で蜘蛛の巣のように広がった。ハルテンスタインは 60年代から1991年まで盛んに採掘された土地で、鉱石は主にシャフト 371 と呼ばれる大運搬縦坑を通じて地上に運び上げられた。
ソビエト連邦が崩壊した時、これらの鉱業活動もまた終わった。

この地方に樹枝状の自然銀やビスマスの結晶が出ることはよく知られており、鉱山稼動中はシャフト番号をふった美麗標本が随分出回り、またズリでも良標本が採集出来たそうである。
上の標本は 1994年に購入したものだが、口上通りとすれば、鉱山が閉山されドイツが再統合された時分に、いずれかの地下坑道に進入した人たちが、残っていた鉱石を運び上げてきたものと考えられる。(2018.8.15)

cf. No.635 淡紅銀鉱 (オーベルシュレマ産)

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