708.コランダム Trapiche Ruby  (ミャンマー産)

 

 

トラピッチェ・ルビー −ミャンマー、モン・シュー(モン・スー)産

 

 

鉱物標本を集める類の人なら、辞書的な意味での鉱物と鉱石の違いはよく分かっている。鉱物が、自然界を3界に分けた動物界、植物界、鉱物界(Mineral Kingdom) に発する区分だということも知っている。その上で収集品をあえて鉱石(コーセキ)と呼び、思い入れを込める。またミネラル・キングダムを鉱物王国と訳して悦に入る。日本語圏の趣味家の特権であろう。

一方、この趣味にあまり縁のない方々もまた、鉱物よりもコーセキという語を選ぶ傾向があるように思われる。趣味を聞かれて、「鉱物の蒐集。水晶とか石の結晶を集めてます」というと、「ああ、コーセキですね」と相槌を打つ人々は、私のまわりに少なくない。むしろ鉱物と言っては通じないが、鉱石と言うと頷いてもらえることが多い。(鉱山という言葉と同様に)ある程度ふつうの人にもなじみがある語なのだろう。もっとも、「石(イシ)を集めてるんですよね」とあっさりまとめられることも多い。
宝石(ホーセキ)といい、原石(ゲンセキ)といい、貴石(キセキ)という。鑑賞石(カンショウセキ)といい、水石(スイセキ)といい、あるいは飾り石(カザリイシ)という。その言葉の響きやイメージの連鎖に、特にホーセキの響きに、鉱石(コーセキ)はすんなりと繋がることが出来るのだろう。鉱石はもちろん宝の石である。

画像はコランダム(ルビーの原石)の結晶が、サトウキビ絞り機(トラピッチェ)の歯車のように六方に放射状に集合したもの。この種の形態のエメラルドをトラピッチェ・エメラルドと呼ぶが、その連想がルビーにもあてられ、トラピッチェ・ルビーと呼ばれている。珍奇な結晶としてコレクターに珍重される。どれくらい珍奇かというと、近山晶氏の宝石宝飾大事典(1995)に、トラピッチェ・エメラルドの項はあるが、トラピッチェ・ルビーの項はないというくらいである。ついでに言えば、ジュエリー言語学(2007)のトラピッチの項にもエメラルドの結晶はあるが、ルビーは言及されていない。
こんなのはやはりホーセキのゲンセキでありコーセキと呼びたい。

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