733.ヨルダン鉱 Jordanite (ルーマニア産)

 

 

Jordanite sacaramb, Romania

ヨルダン鉱(左下 擬似六角状の銀灰色結晶、たぶん右上銀灰色結晶も)
−ルーマニア、フネドアラ県サカリンブ(ナギャグ)産

 

ヨルダン鉱は Pb14(As,Sb)6S23 の組成を持つ、鉛と砒素(とアンチモン)の硫化物で、砒素よりアンチモンが優越するとジェオクロン鉱になる。ジオクロン石を硫安鉛鉱と呼ぶなら、本鉱は硫砒鉛鉱(原色鉱石図鑑に示されている)と呼べるがあまり一般的でなく、響きのよいヨルダン鉱で通っている。
私は昔、ヨルダンとは国名かと想像していたが、実際は人名で、ザールブリュッケンの医師H.ヨルダン氏(1808-1887)を指す。彼は鉱物愛好家だったと思われ、希産鉱物のメッカのひとつ、スイスのレンゲンバッハ採石場で採集された標本を、最初に学者さんに提供した。1864年記載。
腎臓状に集合して産するのが普通で、レンゲンバッハでは扁平な擬似六角板状の自形をとったものが有名。モノの本には4cmに達する結晶が出た、とある。ルーマニアのサカリンブ(ナジャーグ)はもう一つの有名産地で、私の印象では、双晶によって立体感のある六角柱状になった標本が多いと思う。
日本では青森県の湯ノ沢鉱山から出て、閃亜鉛鉱方鉛鉱、津軽鉱(Pb4As2S7)、グラトン鉱gratonite(Pb9As4S15)などと共産した。「日本の新鉱物」(2001)によると、1990年代、この鉱山産のヨルダン鉱やグラトン鉱などを調査していると、異なる特徴を持ったものがあり、よく調べてみると未知の鉱物と分かった。それが1998年に記載された津軽鉱である。論文にはヨルダン鉱が分解することにより津軽鉱と方鉛鉱とが生じたとあるが、初生的に生成したものもあるかもしれない、とのこと。ヨルダン鉱と津軽鉱は連晶することもある。

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