797.リチオフォル石 Lithiophorite (ハンガリー産) |
リチオフォル石は組成式 (Al,Li)Mn4+O2(OH)2
ないし Li6Al14(OH)42Mn32+Mn184+O42
(dana 8th) と書かれる鉱物である。アルミニウムやリチウムの酸化(水酸化)物で構成される正八面体が結合した層と、二酸化(水酸化)マンガン鉱で構成される正八面体が結合した層とが交互に重なった形の層状水酸化鉱物であるという。
命名は1870年で、成分として「リチウム」を「帯びる」の意であるが、その含有率は一定しない。
LiO2 の比率は 0.1% 〜3.3%
の間で大きくバラつき、あるいはリチウムは本質的な成分でないかもしれない、とDana
8th
は述べている。となればそれほどレアな鉱物というわけでもないであろう。実際、土壌中に広く分布し、またさまざまな鉱床の風化帯に含まれる。おそらくは定義のあまり明確でない各種二酸化マンガン鉱(アスボレン、バーネス石、クリプトメーレンなど)と相関する物質なのだろうと言われている。ただしこれらの鉱物と違ってX線回折のパターンははっきりしており(轟石に似る)、他と明瞭に区別できるものである。
またコバルト、ニッケル、銅、亜鉛、鉛などが相当量混じっているのが普通で、ときに5%程度まで含むが、それでもこれらの元素は本質的成分でないとされる(Dana
8th)。
「日本の鉱物」(藤原 1994)は、愛知県瀬戸産の呉須(ごす)を 「アスボレン
(リシオフォル石)
」として扱っている。これはコバルトを含んだ二酸化マンガン鉱で、瀬戸物(陶器)の絵付けに使う青色顔料の原料とした(呉須土)。「鉱物資源辞典」(木下
1965)は、呉須の成分は普通 CoO2・MnO2・4H2O
とされるが、 CoO2 含有比率は 4〜35%
の間で変化する、と述べている。リチオフォル石としても異例にコバルト成分が多い。礫層の礫の表面に付着して産する土状物質であり、あるいは凝結性の水和混合物かもしれない。顔料にするとくすんだ青色に発色し、純粋な(合成)コバルト顔料の華やかな青色とは違った風趣を与える。
補記:アスボレン(アズボレーン)は、元来コバルト(またはニッケル)を含む黒色の土状物質を呼んだが、明確な定義があるわけでない。組成は
(Ni,Co)2-xMn4+(O,OH)4 · nH2Oといった形で表わされる。各種非鉄金属元素を含む酸化マンガンの水和物といったニュアンスか。
リチオフォル石(リシオフォル石)は 1870年にザクセン産のものがブライトハウプトによって報告され、ラムズデルの研究で独立種と言えることが確かめられた(1932年)。上記の組成を持つ単斜晶系鉱物であることを示したのはワズレイ(1952年)。比較的、低酸化度の二酸化マンガン鉱である。 IMA
2020-03 リストに示された組成は (Al,Li)(Mn4+,Mn3+)O2(OH)2 で、マンガンは4価及び3価となっている。(2020.6.5)