311.ホランド鉱/鉄ホランド鉱 Hollandite/Ferrihollandite (スウェーデン産)

 

 

鉄ホーランド鉱−スウェーデン、Norrbotten,Ultevis産

ホランド鉱入り水晶 −マダガスカル、Ihazofotsy, Fianarantsoa産

 

ホーランド鉱…おお、オランダ鉱か!と国名がついていると早合点して買った標本(上)。数年経ってから、イギリス人の地質学者トマス・H・ホーランドに献名された名前と知った。私にはよくある間違いだが、その間ずっとオランダ鉱と思っていたので恥ずかしい。

文献を見ると、原産地はインドのJhabua州で、マンガン鉱床をよぎる石英脈に伴って産した、とある。当時(1906年)、インドは大英帝国の植民地で、ホーランド氏はインド地質調査局の長官を勤めた人物だったから、なにかそういう関連で命名されたものと推察される。ますますオランダとは関係がない。

本鉱は、 Ba(Mn4+,Mn2+816 の組成を持つ、クリプトメレン・グループの鉱物である。(※2012年に変更された。追記)
このグループの特徴は筒状(トンネル状)の結晶構造にあり、おおまかにいうと筒の断面が外側で八角形、内側で四角形のフレームをなし、これがライン状に連なってトンネルを形作っている。トンネルの中には金属イオン(ホーランド鉱ではバリウム)が入っている。この構造によって、結晶はふつう柱状〜繊維状を呈する。

二酸化マンガン鉱の一種といえるが、マンガン:酸素比で5:10の組成を持つロマネシュ鉱など、いわゆるサイロメレン(Psilomelen/Psilomelane)とは一応区別しておきたい。(※追記)
とはいえ、クリプトメレン・グループの鉱石はたいていサイロメレンを相当な割合で含んでいるそうなので、事実上厳密に区分する必要はなく、また肉眼的な識別もまずありえないものと思われる。
ここで「サイロメレン」は、もともとドイツのシュネーベルグに産する硬質の二酸化マンガン鉱を総称した言葉で、「なめらかな黒いもの」の意。この種の鉱物はいずれも黒くて硬く、お互いに性質を区別することが困難だったが、現在では6種以上に細分されている。クリプトメレンはその中にある「隠れた黒いもの」だ。
ちなみに、スティルプノメレン(Stilpnomelane) というまったく別種の鉱物があるが、これは「輝く黒いもの」。

最近、マダガスカルで水晶に入った放射球状のホランド鉱が出て、市場で人気を博している。日本では「星入り水晶」と愛称されるが、アメリカ人は「スパイダー水晶」と呼ぶ。クモ好きなんだな。
標本(下)を観察すると、ホーランド鉱は全方向に均等に放射しているのでなく、結晶面とパラレルな仮想面に対し外向きの半球側に伸びていることが分かる。これは、水晶とホランド鉱のそれぞれの成長プロセスとどう関係しているだろうか?
(2004.記)

 

追記:サイロメーレンは古くハイディンガーがシュネーベルク鉱山に産した黒色ぶどう状の含水酸化マンガン鉱に与えた名で(1827年)、硬度5-6, 比重 4-4.5程度の均質なものを指したが、その後単に比較的硬い含水・酸化マンガン鉱を総じてこの名で呼ぶようになった。20世紀に入って原産地試料が再検討されて、いくつかの組成式が示された。ワズレイは (Ba,H2O)4Mn10O20とした(1953年)。バリウムを含む含水性の二酸化マンガン鉱といえる。 現在これに相当する鉱物としてロマネシュ鉱 (Ba,H2O)2(Mn4+,Mn3+)5O10 が IMA種にある(単斜晶系)。IMA的にはサイロメーレンは(混合物として)廃名の扱い。

「サイロメーレン鉱」は20世紀半ばには種名として扱われ、和名に硬マンガン鉱があてられていたが、その名で呼ばれた試料の多くはバリウムを含まないクリプトメーレン鉱と判明した経緯がある(国産も同じく)。そのため硬マンガン鉱(軟マンガン鉱、マンガン土に対置する分類名称)は事実上クリプトメーレン鉱の和名とみなされている。かつてロマネシュ鉱はサイロメーレン鉱の同義名だった。
クリプトメーレン鉱は 1942年に記載された種で、1938年に愛知県石金鉱山に産するものが石金石として報告されていたが、後に種名整理の際に混合物とみなされて前者が残った。単斜晶系。(1932年にすでにラムズデルが、サイロメーレンにバリウムを含むものと含まないものとがあることを報告しており、後者はクリプトメーレン鉱に相当する。)

ホランド鉱(ホーランド鉱)の組成は現在 Ba(Mn4+6Mn3+2)O16 とされている。バリウムを含む二酸化マンガン鉱で、含水性はない。単斜晶系。 2012年に系統が見直されてホランダイト・スーパーグループが設けられ、コロナダイト・グループ中の"Ba-Mn3+"端成分種と再定義された。マンガン (Mn3+)は鉄(Fe3+)で置換されうる。
原産地のホランド鉱は"Ba-Fe3+" 端成分種にあたることが示され、新種、鉄ホランド鉱(鉄ホーランド鉱) Ferrihollandite [組成 Ba(Mn4+6Fe3+2)O16] となった(※金属イオンの価数/配位に応じた組成式の細分が可能となり、従来、置換成分が優越しない亜種と考えられていたものが、優越種として定義された)。ホランド鉱はインドの Gowari Wadhonaが(新)原産地となった。

上の画像はスウェーデンのウルテビス産で、ホランド鉱として出回ってきた標本だが、新定義では鉄ホランド鉱に分類される。
下の画像はマダガスカル産で "Hollandite star in Quartz"(ホランド鉱の星入り水晶)としてすっかりお馴染みになった。こちらは今のところホランド鉱として通っている。

日本ではクリプトメーレン鉱(硬マンガン鉱) K(Mn4+7Mn3+)O16、パイロリュース鉱(軟マンガン鉱) MnO2、エンスータ鉱(Nsutite 横須賀石)Mn2+xMn4+1-xO2-2x(OH)2xリチオフォル石などの二酸化マンガン鉱との共産例が報告されているが、さて新定義ではどちらに入るのか…。
今の標本業界ではこういう場合(General name がないとき)、両端成分種併記方式で、"Hollandite- Ferrihollandite"といった書き方がされるようになっている。  cf. No.217 轟石

補記:二酸化マンガン鉱はふつう、複数の鉱物種が密雑した混合物として産する。自形結晶を示さず、また結晶度も低いことが多い。さらに吸着性が強くさまざまな元素を微量に含む。
その研究過程では純粋試料を得るのが困難で、人工の二酸化マンガンの研究が先行して結晶構造が調べられ、ついで天然に同様のものを見出すという成り行きが多かった。(逆に天然鉱物に相当する物質の合成によって性状が明確にされたこともある。)

日本では 19世紀末頃からマンガン鉱床の開発が始まり、1950年頃を最盛期にマンガン鉱が採掘された(当時、精鉱3万トン/年を出した)。その後、品位・鉱量が低下して、1965年頃にほぼ稼行を終えた。20世紀後半にはマンガン団塊資源への関心が高まった。20世紀の日本は二酸化マンガン鉱の研究が盛んで、さまざまなマンガン鉱物が発見された。(2020.6.5) 

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