864.ヨアネウム石 Joanneumite (チリ産)

 

 

Joanneumite ヨアネウム石

ヨアネウム石(あずき色結晶) -チリ、イキケ県チャナバヤ、パベジョン・デ・ピカ産

 

チリ北部、イキケ県沿岸の海崖にある古いグアノ鉱山パベジョン・デ・ピカから、2007年に銅アンミン錯体を含む天然鉱物が発見されたことを先に述べたが(No.863 アンミン石・シーロフ石、標本商グンナーは2009年12月にも産地を訪れ、アンミン石採集の洞部から 40m ほど離れた丘の急斜面のき裂箇所で、あずき色をした見慣れない鉱物を採集した。
グラーツのヨアネウムで分析され、その名を採ってヨアネウム石と命名、2012年に新鉱物として記載された。ちょうど前年が、ヨハン大公の開いたヨアネウム(ヨハン館)の創立200年祭にあたり、祝賀気分で命名が通った。

ヨアネウム石は組成 Cu(C3N3O3H2)2(NH3)2 。アンミン石に続く2番目の銅アンミン錯体鉱物であり、イソシアヌレート(陰イオン)を含む鉱物としては初めて天然で発見されたものである。水分を含まない。ハンレイ岩の基岩のき裂には粉末状のグアノが詰まっており、基岩中の黄銅鉱とグアノとの化学反応で生じたとみられる。同組成の合成物が(1970年代から)知られており、標本品質の問題から、結晶構造の検証は合成物と照合して行われた。三斜晶系。
ふつう 2mm程度の潜晶質集合体で産する。ときにサイコロ状の結晶形が見られるが、これは未だ不明の鉱物から変質して生じた仮晶と考えられている。イソシアヌレートが天然環境でどのように生成されたかは明らかでないが、おそらく尿素または類似の成分からの熱分解で生じた尿酸に由来するもの、あるいは尿素と金属塩ないし金属酸化物との反応によるものと考えられている。
蛍光性はなく、モース硬度1。塩化アンモン石、石膏、ディットマー石 Dittmarite、ムーン石などを伴う。

IMAの承認後、記載論文はやや遅れて 2017年に発表された。
パベジョン・デ・ピカからはこれまでに7種の新鉱物が記載されている。記載年順に並べると、

Ammineite アンミン石 2008年:初の天然銅アンミン錯体鉱物。
Joanneumite ヨアネウム石 2012年:初の天然イソシアヌレート鉱物。銅アンミン錯体鉱物。
Chanabayaite チャナバヤ石 2013年:初の天然トリアゾレート鉱物。銅アンミン錯体鉱物。
Shilovite シーロフ石 2014年:初の天然銅テトラアンミン錯体鉱物。
Antipinite アンチーピン石  2014年:銅の有機酸塩鉱物。(天然のシュウ酸塩鉱物は珍しい)
Möhnite ムーン石 2015年:アンモニアを含む硫酸塩鉱物。
Triazolite トリアゾレート石 2017年:チャナバヤ石に先行して生じるとみられるトリアゾレート鉱物。 銅アンミン錯体鉱物。

である。このうちアンチーピン石とムーン石について簡単に触れると、アンチーピン石はシーロフ石と同様、鉱物学者ゲルハルト・ムーンが北斜面で採集した標本からロシア科学アカデミーが報告した種である。同アカデミーのミハイル・ユヴェナレビッチ・アンチーピン(1951-2013)に献名された。アンチーピンは有機金属物質の結晶化学を研究した人物。
組成 KNa3Cu2(C2O4)4。シュウ酸を含む珍しい鉱物で、類似組成のものに ホイートリー石 Wheatleyite があるが(組成 Na2Cu(C2O4)2・2H2O、1986年記載。原産地ペンルバニア州ホイートリー鉱山、群馬県西ノ牧鉱山にも報告あり)、アンチーピン石の方は水和物でなく、水分を含まない。青色の短柱状の微小結晶をなす。三斜晶系。
本鉱の記載論文にはムーンとグンナーとが共に名を連ねており、原標本はドイツ、フライブルク鉱山アカデミーに置かれている。同時期に複数機関で研究が進められたのであろうか。

ムーン石もまたムーンが採集した標本からロシア科学アカデミーが報告した種で、彼に献名されたもの。組成 (NH4)K2Na(SO4)2。アフティタライト Aphtitalite (K,Na)3Na(SO4)2 (1813年記載、ベスビアス火山原産)のアンモニア置換体に分類される。茶黄色の八面体状ないし鋭錐状の結晶をなす。パベジョン・デ・ピカから記載された新鉱物としては、銅成分を持たない初めてのものである。原標本は同アカデミーに置かれている。

画像はヨアネウム石の標本として入手したものだが、鮮やかな空色のシミや茶黄色のシミやらが付いている。共産鉱物の一覧からそれらしいものを拾うと、アンチーピン石やムーン石かもしれないと思うが、なにしろ結晶形のない微小なシミであるし、ラベルに書かれていないのでよく分からない(岩塩、塩化アンモン石、チリ硝石なども含まれているはずだが、やっぱりどれだか分からない。)

追記:パベジョン・デ・ピカ産の新鉱物記載は現在進行形で、本文に記載のほか次の2種が報告されている。(2020.12.30)
Amoniotinsleyite 2019年:アンモニアとアルミの燐酸水酸2水和塩。
Bojarite 2020年:3番目に発見されたトリアゾレート鉱物。トリアゾレート石やチャナバヤ石がさらに天然状態で風化して生じる。

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