865.チャナバヤ石 Chanabayaite (チリ産) |
チャナバヤ石はチリのグアノ鉱山跡、チャナバヤ・デ・ピカで発見された鉱物の一つである。cf.
No.863、No.864。
グアノが堆積したこの丘の洞内で 2007年に後のアンミン石(やシーロフ石)を採取した標本商グンナーは、翌2008年の採集旅行でこれらに似た青系色の鉱物を、洞から
40mほど離れた北側の急崖で採集した。次いでムーンとヘーリヒが
2012年に同じ場所で同様の鉱物を採集する。ムーン博士らから提供された標本をロシア科学アカデミーのチュカノフらが調べ、青色物質がトリアゾレートを含むことに気づく。そして
2013年、とるものもとりあえず急拵えでデータを揃えて新種チャナバヤ石を申請した。という印象を受ける。その名は丘から1.5km
ほど北にあるチャナバヤ村に因む。記載論文は2015年に出た。
チャナバヤ石は組成 Cu2Cl(N3C2H2)2(NH3,Cl,
H2O,□)4 。天然では初めて発見された 1,2,4-トリアゾレート陰イオン(C2N3H2-)を含む鉱物であり、また
N-N
結合構造を持つ初の天然鉱物でもある。長柱状〜針状の半透明の結晶をなし、やや緑味を帯びた塩化アンモン石に伴って産する。水に不溶だが、温水に漬けるとその後、結晶が曇って不透明になる。閉管中で融点以下に加熱すると白い昇華物を生じる。塩化アンモニアである。融点以上に熱すると昇華物の量が増え、また水分が放出される。激しく燃焼させると銅成分(常に+2価)が還元される。
鉱物において窒素成分は、硝酸陰イオン(NO3-)またはアンモニア陽イオン(NH4+)の形で構造に寄与するのが普通だが、アンミン石やシーロフ石、ヨアネウム石、そしてチャナバヤ石(またトリアゾレート石)では、イオン価を持たない
NH3
の状態(ちょうど水分子が水和するのと同様の親和状態)で寄与し、銅イオンとの間に錯体を形成する。非常に珍しいことである。
ところで記載論文には、本鉱の結晶構造を分析している間に、銅とトリアゾレートとの相関が同様の空間構造を示す、組成 Na2Cu2(N3C2H2)2(NH3)2Cl3・4H2O の物質をも見出していたことが述べられている。いくつかの試料はこれとチャナバヤ石との中間的な組成を持っていた。そこでチュカノフらはこれをチャナバヤ石の前駆的物質と見做し、風化してナトリウムや塩素、水分が一部溶脱・散逸した結果としてチャナバヤ石が生成されると考えた。
その後研究が進められ、この物質はやや組成式を改めて NaCu2(N3C2H2)2(NH3)2Cl3・4H2O の新鉱物トリアゾレート石
Triazolite として記載された(2017年)。チャナバヤ石と同様の形状・産状の結晶集合をなすが、概してより青紫味の濃い美しい鉱物である。
トリアゾレート石からのチャナバヤ石の生成機構を、チュカノフらは、ロモノソフ石
Lomonosovite からのムルマン石の形成(仮晶)や、ヴォネム石
Vuonemite からのエピストライトの形成(仮晶)に擬えている。これらは元の鉱物から
Na3PO4
成分が抜けて生じる(ことがある)のである。またデルハイ石
Delhayelite からの NaF(ビリオム石)とKCl
(塩化カリウム)成分の溶脱がフィヴェーク石 Fivegite、
ついでハイドロデルハイ石 Hydrodelhayelite
への変化をもたらす例を引いている。コラ半島に産するこうした希産鉱物を援用してくるあたりが、流石にロシアの鉱物学者である。
組成式はチャナバヤ石とトリアゾレート石とが、アンモニアとの親和、及び水との水和状態にあることを示している。きわめて高濃度のアンモニア水が介在してはじめて形成されるのだろう。
画像はヨアネウム石の標本にくっついていたチャナバヤ石を撮影したもの。両者は共産するが、どちかというと、チャナバヤ石やトリアゾレート石が密に集合する箇所にはヨアネウム石はあまり含まれないという。いささかボケた画像だけれど、なにしろ1mm 前後の大きさの結晶しか作らないので、かっちり撮るのはなかなか難しいのです。20年前のデジカメ(コンデジ)だったら不可能なレベルです。