913.ひすい輝石   Jadeite (ロシア産)

 

 

 

jadeite russia

ひすい輝石(切断研磨品) - ロシア、シベリア、サヤン山地産

 

 

エカテリーナ治世の 18世紀半ば以降、ロシアではウラルやシベリア産の豊富な石材を利用したラピダリー産業が国策として興った。(cf. ロシア帝国の成立とウラル鉱工業の始まり(補記1)
ロシア産ジェードは 19世紀来中国に輸出されてきた歴史があるという。
伴ってジェードに関連する数多くの研究がなされてきたそうだが、文献の大半は西洋圏の言語に翻訳されておらず、日本の我々にしてもその歴史や産地の情報に接する機会は乏しい。もっとも同じことはイスラム圏やインド圏の情報についても言えるのだが。

黒海・カスピ海地域には新石器時代にネフライト・ジェード石器を使用した形跡があり、古くは BC2,000年頃に遡るという。コーカサス山地やシベリア・バイカル湖西部の東サヤン山地に鉱床がある。

ジェーダイト(ひすい輝石)では極ウラル地方、カザフスタン、シベリアの西サヤン山地に鉱床がある。いずれも 20世紀に(再?)発見された。極ウラルのジェーダイトはボイカル-シンインスク帯と呼ばれるオフィオライト層の蛇紋岩メランジェ帯に含まれるものである。1979年に行われた地質調査でジェーダイトの生成に適した土地として注目されたが、最初のジェーダイト塊が発見されたのは1989年夏のことで、10年間に及ぶ調査を要した。この塊はミャンマー産のインペリアル・ジェードに匹敵する鮮やかな翠色が一面に広がる宝石質のもので、中華圏のひすい商に高額で買い取られた。そして彼らの出資を受けて採掘が始まった。プスエルカ Pusyerka (Pus'erka)鉱山という。高品質のジェーダイトを産するが、極寒僻遠の地での採掘は困難で(夏季の3ケ月間のみ操業可)、運営は滞りがちのようである。(※キーエフレンコの「宝石地質学」(2003)には 1937年発見で、80-90年代に開発された、とある。)

カザフスタン東南部、バルハシ湖の南方にはイトムルンスキー鉱山があり、ジェーダイトやネフライトを産する。しかし品質は今ひとつといい、市場性に乏しいようだ。1932年の発見。超塩基性岩起源の接触変成鉱床で、蛇紋岩メランジェに含まれる。

モンゴルとの国境に近いサヤン山地は東部地域が 19世紀以来ネフライトの産地として知られてきたが、西部のボールス・オフィオライト帯の蛇紋岩メランジェではジェーダイトが得られる。1959年に発見され、60年代に大規模な調査が行われた。76-86年にかけて宝石質の石が採集された、とキーエフレンコは述べている。
今日、エニセイ川の畔、アバカン北方のカーカシア Khakassia に鉱山が稼働されている。ミャンマーや極ウラン地方の最上品には及ばないが、カザフスタン産ほど悪くなく、まずまず良質のヒスイが得られるという。操業も年7ケ月間可能。現在流通しているロシア産のジェーダイト・ヒスイは一般にこの産地のもののようだ。画像の標本もその一つ。