912.軟玉 Nephrite (ポーランド産) |
ヨーロッパにおけるジェード産地と新石器時代のジェード遺物との研究は
19世紀末以降ゆっくりと進んで、21世紀初には学際的なプロジェクトも始まったが、未だ謎は多い。
輝石類の石器について No. 909,
910, 911
に記したが、閃石類(ネフライト質)について言うと発見された石器の数や分布は輝石類よりさらに多く広い。
西はフランス北西部のブルターニュ地方やスペイン、海を渡ってイギリスに伸びる。イタリア産の石材で作られた石器を交易で入手し、地元の文化嗜好に適うよう再加工したもの、という説があるが定かでない。
東は東欧のチェコ、ハンガリー、ポーランド、またバルカン半島に拡がり、ことにブルガリアの首都ソフィアの南西
70kmのガラブニク峡谷では大量の玉器が出ている。ネフライトのほかオンファス輝石製のものがあり、古層は
BC6,000-5,820年頃に遡るという。BC5千年紀以降に途絶える。
イタリアの産地はこの頃まだ本格稼働されてなかったとみられ、石材の出処は明かでない。バルカン半島は輝石・閃石類を含む蛇紋岩帯があるので、おそらくそのどこかからと推測されている。
一方、クロアチアに出土した石器は BC4千年紀のもので、イタリアからの交易品と考えられている。
ポーランド南西部のシレジア地方にはおそらくヨーロッパ最大規模のネフライト〜蛇紋岩帯があり、ヨルダナウ(旧ヨルダンスミュール)の露頭は1885年にトロービが報告している。ブロツラフ近くのライヘンシュタインを発見したのも彼で(1887年)、これらは近代以降もっとも早くに(再)発見されたネフライト産地となった。
当時、ヨーロッパの古代ジェード器は概ねこれらの石材を使ったと解釈されたが、その後各地に産地が発見されたこともあり、現在では流通は周辺地域(ポーランドやハンガリー)に限られたとの見方が優勢で、古代には知られていなかった(利用されなかった)とみる向きもある。ポーランド南西部に出土したジェード石器は
BC5-3千年紀のものという。
画像はヨルダナウ産のネフライト。宝石質とは言えないにしても、磨くと艶のある深い緑色を見せて、なかなかに美しい。蛇紋岩、ロディン石、緑泥片岩などに懐胎されて出る。10~60μmサイズの繊維状の透閃石が複雑に絡まりあうという。
cf. ヨルダンスミュール産の軟玉(ヨアネウム蔵)