1016.水晶 微晶連接のアーチ Quartz Arch of tiny crystals (ルーマニア産) |
いわゆるカルセドニーの標本には肉眼的な自形結晶が見られない(潜晶質の)葡萄状〜仏頭状〜鍾乳状・脈性のものが多いが、時にその表面に微小な自形結晶面(たいていは錐面)が現れているものもある。後者の場合、個々の結晶は集合体の概形をコアにして放射状に、あるいは着床曲面の法線方向に向かって発達するようだ。これをカルセドニーから水晶への遷移とみてもいいかもしれない。そして私としては、カルセドニーから水晶へ、水晶からカルセドニーへ遷移する過程は、環境によっては繰り返し生じるのではないかと考える。
このページの標本は、ルーマニアのカブニック産。黄鉄鉱や閃亜鉛鉱などの硫化金属と石英(水晶)とが同時期的に生じた産状。微小な水晶が無数に群れて塊をなしているのだが、面白いことにある箇所ではほぼ水平な広い面が生じており、その周縁に競り上がるように同じ高さに伸びた微晶集合体の壁が形成されている。
また別の領域では、ある程度の大きさにまで成長した半透明の水晶がクラスターをなしており、さらにクラスターを覆うように微晶が連なったシート状ないしドーム状の笠が形成途上にある。
壁や笠はおそらく微晶の連接が漸進的に発達して生じたもので、壁であれば下側から上方に積み上がってゆき、笠は支柱をなす基幹結晶から放散するように裾広がりに連接していったと見える。これら微晶の柱軸方向は不揃いで、かなりランダムに繋がって見える。言い換えると、ある環境条件においては、一つの結晶構造に準じた層状の(面上の)成長よりも、多結晶的な連接による成長の方が優先的に起こるのだろう。
そして笠や壁が形成された後、再び単晶の成長が優先される環境が生じれば、これらをシート状の苗床として、比較的大きな結晶が成長してゆくだろう。その柱軸方向はおそらく不揃いでランダムになると思われる(苗床の組織がランダムなのだから)。