1017.ファーデン水晶3 Faden Quartz (パキスタン産) |
No.1013〜No.1015
で潜晶質〜微晶質的な白濁したシート状集合体の上に肉眼的単晶が成長した形を、また
No.1016では肉眼的な微晶が連なって壁やドームを形成した標本をご覧いただいた。こうした標本は、水晶の成長に明らかに異なる複数の過程、すなわち比較的多数の微晶が連接して2次元的に広がっていく過程や、比較的少数の結晶が(おそらく長い時間をかけて)独立に大きく成長してゆく過程やが、分かれて存在することを示している。一方の過程が優勢な時、他方は抑制されていると思しい。
このことはブラジル産の球果形メノウにおいて、晶洞の壁に近い領域で潜晶質のメノウ(玉髄)が積層した後に、自形水晶が成長する類の標本によっても裏付けられる。自形水晶の上を再び層状のメノウが覆う場合もある。 cf.
めのう No.17、 No.29
etc.
ここに潜晶や微晶がシート/層をなすのは2次元的な現象だが、いわゆるファーデン水晶(No.75、
No.300、No.951)のファーデン/縫い糸は、その1次元的な現象と解釈出来ないだろうか。白濁した縫い糸が生じる過程と、これを苗床に平板状の透明結晶が成長する過程とがあるのだ、と。
少なくとも画像の標本は、この理解を許すように思われる。
標本は総体として3次元的な集合体になっている。タガネ形の錐面を持つ平板単晶が(亜)平行連晶した2次元的な(平面)グループが複数見られ、これらが互いに平行に、または旋回した配置で繋がっている。そして白濁したファーデン領域は、これらが互いに結びつく軸線(グループ平面の交差線)となっているのだ。別にいくつかの独立した単晶形がみられるが、これらの柱軸もまたそれぞれ異なる方向を向きつつ、白濁領域で繋がっている。
すなわち、いくつかの単晶形は明らかに縫い糸を起点として発生しているのであり、またその領域には単晶形の柱面が成長してゆく、いくつかの選択的な方向性が(潜在的に)具わっているのだと考えられよう。
この解釈を再び2次元シートに敷衍すると、シート状聚形の集合体において、透明な肉眼的結晶の成長する方向が、より錯綜の度を増してランダムなように見えながらも、ある程度グループ分け出来るケースのあることを理論立てられるように思う。