1023.ファーデン水晶8 Faden Quartz (パキスタン産) |
ファーデン水晶は、面白い形の複合形や双晶と思しい結晶集合体が見つかる宝庫である。
ほぼ等幅で直線的に伸長するファーデンの幾何学的な形態は、それ自体がファーデンを含む単晶形の持つ結晶構造に支配された指向性を伴う成長であり、構造欠陥の継承によって進んでゆくことを示唆していると考えられる。
あるいは逆にファーデンの持つ(比較的緩い秩序の)結晶構造が、ファーデンを含んで発達する単晶形のありうべき形態をいくつかの選択肢に絞っている/決定していると言ってよいかもしれない。
そうであればファーデンはまた、(別の選択肢として潜在する)柱軸方向の傾いた別の晶形の分岐点・会合点にもなりえて、複数の単晶形がさまざまな配位で接合した集合体を出現させる誘導要因として妥当なわけである。
実際、こうした複合形/ひずみ形の見られないファーデン水晶の標本はむしろ珍しく、また晶形間の接合(配位)の仕方は明らかに反復的な性質、幾何学的な秩序の作用を示しているのである。と私には観じられる。
すでにいくつか例を見てきたが、このページの標本は一つの面白い特徴を持っている。
一番目の画像で説明すると、主晶は比較的大きな平板形で、その下部はおそらく母岩に接していた領域であり、比較的小さな単晶形の群晶が付いている。根元の群晶に比べて主晶のサイズがかなり大きい様子は日本式双晶の産状に似ており、これだけ見れば、ファーデン水晶は日本式双晶のように普通の単晶よりも大きく成長する傾向がある、といいたくなる。が、それは多分言い過ぎであろう。
ファーデンは主晶の中央を、画像上でほぼ垂直方向に立ち上っている。長い帯線が二つ見えるが、右側がファーデンで、左側の帯線は実は結晶面である。主晶の柱軸とファーデンの走向とは約 75度傾いている。面白いのは左側の帯線をなす結晶面がファーデンと平行に生じていることで、このような斜面は主晶に属する結晶面としては普通ありえない。よく観察すると、条線を持った別の晶形の柱面であることが分かる。下に断面模式図を示す。
黒色の主晶の段差のある平板面(m面)に、赤紫色の別の小晶が接合した形態が見られて、その伸長方向(柱軸方向)とファーデンの走向に幾何学的な秩序が観じられるわけ。言い換えると、ファーデンの走向は主晶の結晶構造に対してランダムに生じているわけでなく、別の晶形が整合的に接合しうるような特別な位置関係にあるのだと推測出来る。
(ついでに言えば、赤紫色の小晶の面反射光沢には斑があり、ドフィーネ式双晶領域を含むと思われる。)
もうひとつ特徴を上げれば、主晶の上部裏面に柱軸が約
33度傾いた別の小晶が付着している。ファーデンは主晶の上端付近まで伸びており、前のページで述べたように、付着した小晶は主晶のファーデンの近傍にあるのが経験則。
小晶の配置は4番目の画像の下の模式図の通り、主晶の
m面(黒色)と小晶の m面(青色)とが平行しない(柱軸が傾いた上に柱軸回りに旋回した配置)。青色の小晶は、赤紫色の小晶がある側の平板面に付着(半ば埋没)しており、赤紫色の小晶の結晶面が若干貫入している。
そしてその先の小晶内部には直線状のき裂帯が観察される(模式図の黄緑色の点線)。このき裂帯はファーデンや赤紫色の小晶の柱軸とほぼ平行である。一見ファーデンのようだが、普通のファーデンが持つ白濁した気泡の密集するバーコード模様を持たない、いわば擬似ファーデンである。これに言及したのは、市場に出回るファーデン水晶の標本の中には、擬似ファーデンだけを持つタイプがあるらしいからだ。