1024.ファーデン水晶9 Faden Quartz (パキスタン産) |
No.1023 でファーデンに平行する直線状の「き裂帯」、「擬似ファーデン」について記したが、本ページはその「き裂帯」のみがあって、バーコード模様のファーデンが見られない標本を示す。市場ではこれもまたファーデン水晶として扱われている。
き裂帯は結晶の内部に狭い幅の剥離が生じて、それが細長く直線状に伸びたものと観察されるが、剥離の様子は水晶の破面に特徴的な貝殻状断口(不定のアンジュレーションを持つ帯)になっている場合と、ほぼ平面的に剥離して細い条線(ステップ)を伴っている場合とがあることが分かる。
前者はへき開不明瞭な結晶に特徴的な破面であり、後者はへき開明瞭な結晶に特徴的な破面である。水晶は一般に「へき開なし」として扱われるが、山梨の水晶細工師らは
r面などの不完全なへき開面(裂開面)を利用して、水晶を小割り加工したことが記録されている。(No.935
補記2)
この標本に見られる擬似ファーデンは、結晶が不明瞭なへき開(裂開)に沿って割れたものと考えてよさそうだが、晶出時から割れていた(割れながら成長した)わけではなく、おそらく成長が完了した後の環境変化(温度や圧力履歴)によって結晶構造の弱い領域に剥離が生じたものと推測できる。
形状から推して、成長時にはここにファーデン(細かな気泡が流線状に生じた短い単線が、平行的にかつ等幅で連なってバーコード模様をなした細長い帯)があったのかもしれない。その後ファーデンを伝ってき裂が走ったのではないか。
逆に言えば、ファーデンをなす気泡は、そもそも比較的結晶構造の弱い面(例えば r面に平行な面)上にトラップされ、結晶の内部に封じ込められる傾向があるのではないか。また、その幅が揃っていることは、トラップを生じる領域は、構造欠陥が結晶成長の間に解消されないまま新たな領域に受け継がれてゆく性質を持っていたことの現れと考えられる。
本ページには、通常のファーデン水晶のファーデン模様の拡大画像と、いわゆるブルーニードル(エンジェル・フェザー)の拡大画像も併せて示しておく。ブルーニードルもまた結晶構造の欠陥を引き継いで直線状に成長したと考えられる現象で、その伸長方向は「 r面と z面の境界をなす稜に平行に伸びる傾向」が指摘されている(それはもちろん
r面上を走る)。
ファーデンとブルーニードルの成因には共通点があると思われる。
ちなみに4枚目の画像に示したように、この標本には主晶形のほかに、柱軸の傾いた別の晶形がついているが、それはファーデン領域あたりから生じているようである。そして別の晶形にもファーデン様の白濁部が生じている。
このようなファーデンのあり方を見ると、私としては、ソ連のレームレイン(Laemmlein)が示して今日広く支持されている成長仮説(1946年)は結果論であって、必ずしも主張されている成長過程(空隙の漸進的拡大とブリッジの成長過程)を経る必要はないのではないかと思われる。
追記:帯状のクラック入りと言えば、米国ニューヨーク州ウォルワース産に、この種の珍しい蛍石標本がある。cf.
No.169
パキスタンはファーデン水晶標本の一大供給地であるが、同国にはエピドートにもファーデン様の帯が入ったものがある。
cf. No.516