1024.ファーデン水晶9 Faden Quartz (パキスタン産)

 

 

 

異形的な(一部の錐面が大きく発達した)晶癖の水晶 
-パキスタン、南ワジリスタン、ダラ・イスマエル産
ファデン様の細い線が内部を貫いている

結晶面と擬似ファーデンの走行を示した図。
両錐(両頭)の水晶で、図の配置で見ると、
上側の錐面の頂点とこれを通る柱軸に対して、
下側の錐面の頂点の位置が大きくずれている形。
内部にファーデン様の白濁線がある。

上の画像の裏側(柱軸回りに180度回転した配置)
正面に大きな柱面が見える(柱面の条線に反射光)。
その上は r面、右にある長い傾斜面は上部側の z面。
左下傾斜面は下部側の r面。

さらに90度柱軸周りに回して上下逆さまにした配置。
ファーデン様の白濁部あたりから、
柱軸の傾いた別の単晶形が生じている。

「別の単晶形」の拡大画像。
この単晶形にもファーデン様の
白濁線が走っている(左右方向)。

主晶形を走るファーデン様の白濁線。
r面が左右の奥行方向にくる配置。
この配置で見ると、白濁線は r面にほぼ平行
(r平面上を走る)といえる。

結晶面と擬似ファーデンの走行を示した図

擬似ファーデンの拡大画像
3筋の白い線が見えるのは剥離部が連なったき裂で、
凹凸のある貝殻状断口に明るい反射光を生じたもの。
筋の間には小さな気泡が簾状に流れているのが見える。

顕微鏡画像。
連なったき裂面の一例(反射光を出してある)。
水晶の破面は一般に「貝殻状断口」と呼ばれる
不定形の湾曲面になるが(へき開不明瞭のため)、
擬似ファーデンのき裂面には貝殻状断口を示す方位と、
条線状の整った断面を示す方位とがある。
水晶にも緩いへき開面が存することの証左。

 

No.1020 の2番目の標本のファーデン部 顕微鏡画像
一般にファーデンは細かな気泡が連なった短い単線が
簾状に平行に束ねられた様子(バーコード模様)をしている。

同上 ファーデン部 無数の気泡の集合
拡大してみると、バーコード模様の一本一本は
必ずしも直線でなくゆらめくような曲線状になる
場合のあることが分かる。

No.987 ブルーニードル(再掲)
右側に広い幅を持つファーデン調の領域(曇り)がある。

同上。ブルーニードル(針状)を顕微鏡で観察すると
ファーデン調のバーコード模様が見られる。
ブルーニードルの走行方向は、錐面(r面)に
平行な面上にあることが指摘されている。 

 

 

No.1023 でファーデンに平行する直線状の「き裂帯」、「擬似ファーデン」について記したが、本ページはその「き裂帯」のみがあって、バーコード模様のファーデンが見られない標本を示す。市場ではこれもまたファーデン水晶として扱われている。

き裂帯は結晶の内部に狭い幅の剥離が生じて、それが細長く直線状に伸びたものと観察されるが、剥離の様子は水晶の破面に特徴的な貝殻状断口(不定のアンジュレーションを持つ帯)になっている場合と、ほぼ平面的に剥離して細い条線(ステップ)を伴っている場合とがあることが分かる。
前者はへき開不明瞭な結晶に特徴的な破面であり、後者はへき開明瞭な結晶に特徴的な破面である。水晶は一般に「へき開なし」として扱われるが、山梨の水晶細工師らは r面などの不完全なへき開面(裂開面)を利用して、水晶を小割り加工したことが記録されている。(No.935 補記2)
この標本に見られる擬似ファーデンは、結晶が不明瞭なへき開(裂開)に沿って割れたものと考えてよさそうだが、晶出時から割れていた(割れながら成長した)わけではなく、おそらく成長が完了した後の環境変化(温度や圧力履歴)によって結晶構造の弱い領域に剥離が生じたものと推測できる。
形状から推して、成長時にはここにファーデン(細かな気泡が流線状に生じた短い単線が、平行的にかつ等幅で連なってバーコード模様をなした細長い帯)があったのかもしれない。その後ファーデンを伝ってき裂が走ったのではないか。

逆に言えば、ファーデンをなす気泡は、そもそも比較的結晶構造の弱い面(例えば r面に平行な面)上にトラップされ、結晶の内部に封じ込められる傾向があるのではないか。また、その幅が揃っていることは、トラップを生じる領域は、構造欠陥が結晶成長の間に解消されないまま新たな領域に受け継がれてゆく性質を持っていたことの現れと考えられる。

本ページには、通常のファーデン水晶のファーデン模様の拡大画像と、いわゆるブルーニードル(エンジェル・フェザー)の拡大画像も併せて示しておく。ブルーニードルもまた結晶構造の欠陥を引き継いで直線状に成長したと考えられる現象で、その伸長方向は「 r面と z面の境界をなす稜に平行に伸びる傾向」が指摘されている(それはもちろん r面上を走る)。
ファーデンとブルーニードルの成因には共通点があると思われる。 

ちなみに4枚目の画像に示したように、この標本には主晶形のほかに、柱軸の傾いた別の晶形がついているが、それはファーデン領域あたりから生じているようである。そして別の晶形にもファーデン様の白濁部が生じている。
このようなファーデンのあり方を見ると、私としては、ソ連のレームレイン(Laemmlein)が示して今日広く支持されている成長仮説(1946年)は結果論であって、必ずしも主張されている成長過程(空隙の漸進的拡大とブリッジの成長過程)を経る必要はないのではないかと思われる。

追記:帯状のクラック入りと言えば、米国ニューヨーク州ウォルワース産に、この種の珍しい蛍石標本がある。cf. No.169
パキスタンはファーデン水晶標本の一大供給地であるが、同国にはエピドートにもファーデン様の帯が入ったものがある。 cf. No.516

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