974.水晶 (双晶の識別3) Quartz Dauphine twin (インド産ほか)

 

 

水晶  -インド、クル谷産 
錐面の上部に段差(水平条線)のあるもの。
その上を平面的な錐面が覆う。

正面の錐面の右肩あたりに直線的な分画境界が見える

水晶 −インド、クル谷産
錐面に明瞭な段差(水平条線)があるもの
右・中央の錐面に跨って不規則形状の分画境界あり

水晶 −インド、クル谷産
錐面に不規則形状の分画境界(透明度の違い)あり

同上 少し左に回して、右側の錐面の不規則境界を示した画像

水晶 ノミ形の結晶 −インド、クル谷産
不規則境界で分画された領域が複数混じる

同上 反射光によって錐面上の成長丘を示した画像
おにぎり形に近い三角形と、縦長二等辺に近い三角形とがある。
cf. No.964 (錐面上の成長丘の2種の三角形状)

上の画像に分画の境界を描いたもの
三角形の形状の違いはこの分域の範囲に応じているようだ

水晶 −ブラジル、M.G., クディシュネック、パウリスト・プレシデンテ産
No.939の標本 錐面の表面に透明度の異なる領域が混じる
呼応して柱面にも境界らしきものがみられる

同上 柱面には浸食の具合が異なる領域がある

シトリン −タンザニア産
No.597の標本 錐面に直線的な分画領域あり

 

ひとつの錐面のうちに表面状態(透明度)の異なる領域の混じる水晶があることを No.973に述べた。その違いはおそらく三方晶的な結晶構造によって水晶(低温石英)が持つ2種の錐面(r面と z面との菱面体面ペア)の性質の違いを反映しているらしいこと、 r面上に z面の性質を持つ領域が混じり、また z面上に r面の性質を持つ領域が混じるらしいことを述べた。そして目視で確認出来る境界線を双晶の境界と仮定して、ドフィーネ双晶の性質に結び付けて解釈を与えた。
しかしこの仮説はもちろん、ただ思いついて言ってみた、というわけではない。これは昔の鉱物愛好家や研究者も観察してきたことで、やはり双晶と結びつけて説明されたのだ。というより、この性質がドフィーネ双晶を見分ける特徴の一つとして認識されていた。

ブラウンズ/スペンサーの「鉱物界」(1912)は、図版53に水晶の双晶標本を載せて次のように述べている。
「双晶は水晶においてしばしば起こっていることだが、双晶した結晶は一見、単結晶とまったく同じ外観をしている。ただ表面に現れた結晶面(群)の特徴によって、双晶していることが推測されるばかりだ。凹入角が観察出来れば一目で双晶であると分かるが、それは稀なことである。 cf. No.975 三方晶貫入双晶の図
…(図版53の)図1の結晶では、双晶である根拠は菱面体面上に光沢の明るい領域と鈍い領域とが不規則に分布しているのが見られることだけである。…明るい領域は正菱面体(+R)(※r面のこと)に、鈍い領域は負の菱面体(-R)(※ z面のこと)に属する。
…このタイプの双晶は、もし結晶に trapezohedral 面(※ねじれ双角錐面: x面など)が現れていれば、よりはっきりと認識することが出来る。双晶の場合、この面がすべての柱面上に現れることになるからだ。図2は二つの右手水晶がこの種の双晶をなしたものである。図3は二つの左手水晶がこの種の双晶をなしたものだ。」
ブラウンズらは、このタイプの双晶に名前を与えていないが、我々の言うドフィーネ双晶(ドーフィネー双晶/ドーフィネ双晶)であることは明らかと思う。

「鉱物界」の図版53 より 水晶のドフィーネ双晶
2 と 3では隣接する柱面上に三角形状の x面が並んでいる。
単結晶では x面は間に柱面を一つ挟んで現れる。
いずれもスイス産

また MR誌 Vol.15 No.4(1984) には「ヘマタイトの被覆成長 −水晶のドフィーネ双晶の輪郭を描いて」という記事が寄せられている。ニュージャージー州パターソンの採石場(cf. No.439)で、沸石に伴って産する水晶(や方解石)の結晶面をヘマタイトが二次的に被覆した標本について考察を述べたものである。
被覆はおそらく r面と推測される錐面上に選択的に生じているのだったが、結晶の中には (r面とz面とを合わせた)六つの錐面を不規則に分画して被覆したものがあり、著者 W.A.ヘンダーソン Jr. はこの現象をドフィーネ双晶の分画境界に関連づけて論じた。すなわち、双晶によって入り混じってはいるが、錐面上の r面に相当する領域にだけヘマタイトが被覆成長したと考えたのだ。

記事の中でヘンダーソンはドフィーネ双晶の識別に触れて、
・そうしばしばではないが、柱面(m面)上の条線が途切れている境界でドフィーネ双晶を識別できる場合があること(途切れた後、周囲と違ったパターンの不規則な条線が分布する領域が見られる)
・対掌性の識別に利用できる s面や x面が、ドフィーネ双晶ではより頻繁に出現する場合があること
を述べ、さらに、
・あまり機会は多くないが自然な浸食作用によって識別できる場合があること
に言及している。
すなわち、浸食によって z面は鈍い光沢を持ち、 r面は明るい光沢を持つようになる、と。こうした浸食作用は錐面や切断面に対して人工的に生じさせることが出来て、ドフィーネ双晶を識別するもっとも信頼できる指標になるとしている。
そして最後にもう一つの方法として、別種鉱物(ヘマタイト)の被覆成長の選択的分布による識別を挙げたのだ。

下図は彼が示したドフィーネ双晶のモデル図で、白地の領域の結晶に対して斑点地の領域は結晶構造が柱軸回りに180度回転している。右下の白黒ダンダラ模様の六角形は、黒い領域すなわち双晶した二種の r面上(rA 及び rB)にだけヘマタイトが被覆する(と考察した)ことを描いたものである。

このページでは(No.972, 973に続いて)、錐面上に反射光の具合の異なる領域が認めらる水晶の例をいくつか挙げた。隣り合う面の間で透明度が明らかに入れ替わって見える結晶は、ドフィーネ双晶である可能性が高い。
5〜7番目の画像(ノミ形の頭部を持つ結晶)ではまた、反射光の回し方を変えると、錐面の一つに微小な三角形状の成長丘を観察することが出来る。No.964 で、ある国産水晶において r面と z面とで三角式成長丘の形状が異なるとの秋月博士の観察を紹介したが、この結晶でも同様の二種の成長丘が見られる。そしてどうやらその分布は分画された領域、すなわちドフィーネ双晶の分布に相関するようである。この特徴も産地によってはドフィーネ双晶を識別する一つの方法として有効と思われる。

No.973 に、「形態に現れないものは右手でも左手でもない」という観方を述べたが、同じ伝で、双晶と識別出来るような微小面(s面、x面)が現れていない結晶は、「形態上の双晶」とは言えないだろう。しかし錐面上に表面の光沢や透明感の違いによる分画模様が観察出来る場合には、「外観上の(ドフィーネ)双晶」であるとは言えそうだ。

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