1045.水晶 鱗状の微小連晶 Quartz Scalitic semi-parallel growth (ブラジル産) |
深度合成画像
この標本は、私が思うにちょっと風変りなもので、いくつかの特徴を兼備している。
一つ。錘面(菱面体面)が一様でなく、傾斜面と比較的短い柱面との繰り返しによって形成されている。また稜線の領域は錘面の内側よりも発達が先行したらしく、骸晶的な、いわゆるエレスチャルの形状を持つ。そのため頭部から柱軸方向に観ると、稜線の出っ張りが6条の星形に見える。
二つ。錘面と柱面との間の遷移はなだらかで、境界は必ずしも明瞭でなく疑似的に大傾斜面を想わせる角度を示す。が、その領域は整った面でなく、波紋のような細かい段差になっている。
三つ。柱面は相対的に柱軸に平行であるが、その表面もまた一様でなく、錘面と柱面とを持つ細かな単晶形の、無数の繰り返しになっている。これらは疑似的に平行連晶であるが、精確に柱軸が一致しているわけでなく揺らぎを伴う。比較的大きく育った稜線上の単晶形は弓なりに反って連接している。
単晶形が集合する様子はジャカレー/クロコダイルに類似だが、単位がごく小さいのでワニより小魚の鱗に似る。私はウロコダイルと呼んでいる。このような形が生じるからには、各単晶形の成長核は個別的に存在し、(仮想)柱面上にそれぞれほぼ同時に整列・着床して結晶面の成長が進んだと考えるべきだろう。
一方、その集合形が一つの大きな単晶形としてまとまっているのだから、成長のより以前の段階では一個の単晶形から概形が育っていったと考えられる。一回性の結晶成長は過飽和度の高い段階から平衡に近い段階に進んで、最終的に整った一様な結晶面をもたらすのがセオリーだが、この標本の場合はむしろ終末期に過飽和度の高い段階が現れたのだろう。
錘面領域の荒々しい骸晶形と、柱面領域のきめ細かな鱗状の皮膜が共存しうるのが、面白いところだと思う。