77.桜石  Sakura-ishi   (日本産)

 

 

湯の花温泉郷の桜天神のそばにいました。

桜石(菫青石の風化物) −日本、亀岡市産

 

むかし、京の都のまわりには、風変わりな生き物がたくさんいた。夜盗、かっさき、家尻切り。生霊、幽霊、物の怪の数々。

そして都から数里の亀岡には鬼たちがいて、稗田野の山を根城に、狼藉を働いていた。あるとき、高徳の行者がこの近くを通りかかり、山のあたりに、ただならぬ妖気が漂っているのを見た。行者は妖気を払うために、懐から「桜石」という霊石を取り出した。この石は、どこで切っても桜の花の形が見えるという不思議な石で、行者が桜石を妖気に向かって投げると、山が二つに割れた。鬼たちは、その割れ目に落ち、暗闇の中に飲み込まれていった。そして、二度と再び現われることはなかった。

その後、山の麓から鬼の涙が流れ出し、暖かい湯気を立ててあふれた。これが今の湯の花温泉である。

温泉郷を訪ねると、うっそうと木々の茂るこんもりした丘に、「鬼と桜石伝説」の看板、そして、由来を記した立て札がある。けれども、桜天神も、桜石も、鬼も、今ではほとんど知る人がない様子である。
もっともこのお話は、温泉観光推進のための作り話だともいうけれど。

cf. No.176 桜石2

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